皆さま、ごきげんよう。この連載コラムの前身「屋台の細道」の最終回で皆さんに別れを告げてから1年が過ぎ、ついにここでもお別れの時が来てしまいました。
この小さなコラムを読んでくださるわずかな時間でも、毎月誌面で皆さんにお仕えできたことに感謝します。どんな話題をお届けしようかと、毎回ネタ選びにワクワクしたものです。「屋台の細道」含め、ダコでの連載が10年経った今も、キーボードに触れ、文字で空白を埋めていく作業にはもれなく興奮が伴います。毎月、新しい玩具を手に入れた子供のように。
とはいえ、現実の僕が子供時代に所有していた玩具は、同年代の子供たちに比べると少なかったように思う。その年頃の思考としては信じがたいが、両親が夜遅くまで働いて得たお金が僕の玩具に変わるのはもったいないと感じて、あまりねだらなかったんだ。玩具が少ないことで、僕は想像の世界に楽しみを見出すようになった。大人にはもう戻ることができない世界だ。
土曜の夜だけ開かれるクロントム市場の中古玩具エリアに足を踏み入れた時、そんな子供時代が脳裏に甦った。
タイのコレクターにおなじみのこのエリアは、戦隊ロボや任天堂のゲーム機、ゴジラ、キングギドラ、仮面ライダーの変身ベルト、ゼンマイ式のブリキの玩具、人形などなど、日本やアメリカから仕入れたものがずらりと並んでいる。照明が不十分な中で商品を吟味するために、懐中電灯を持参する人も少なくない。これは良いアイデアだ。僕もお勧めする。薄暗い中、懐中電灯の光で照らされた古い玩具は魅力倍増だ。子供時代が遠い昔となっても、玩具を見ると童心にかえったように胸が高鳴る。当時の思い出や心境まで甦るからだろう。
僕にとって、このコラムもそんな玩具同様のもの。連載が終われば、皆さんと誌面で繋がっていた事実だけが残る。自分のコラムを読み返すとき、毎月感じていた胸の高まりの復活を抑えることは難しいだろう。そのトキメキは、原稿を書いた当時の思い出に対するトキメキでもある。
この10年のトキメキに感謝。再び、皆さんの思い出の中で会いましょう。
中古玩具市場(クロントム)
場所:ソイ・ジュンジャルンパーニット1
時間:18時~24時 毎週土曜のみ開催
ぺー=シリパン・ジェンタラクールラート
旅人、37歳。ダコタイ語版4代目編集長(~2015年)。現在はタイの大手出版社にて編集スタッフを務める。ダコ本誌で2009年から2018年2月まで「屋台の細道」(全108回)を連載。