
サウナ用のかまどの様子。女性が焚べているのは松の木だ。
桶一杯の水で山をどかすには
銭湯で過ごす時間は至福のひとときだ。しかし、僕の場合、それは湯に浸かっているときではなく、サウナ後に冷水を浴びるとき。最高に爽快感を得られる幸福な瞬間なんだ。日ごろの悩みやうっぷんから解放され、天にも昇る心地になる。タイの諺でいうところの「胸から山が取り除かれる」。この場合の「山」は気がかりなことの意味だよ。
このところ、僕の胸にはまた新たな「山」が盛り上がってきていた。仕事で締め切りに追われ、徹夜もいとわない日々が続いていたから。僕は、この山を取り除く方法を探していたんだ。
3月初め、オンヌット通りソイ45にあるサウナへ行った。カジョンシリ寺という小さな寺の中にある小さなタイ式ハーブサウナ。地元の人が地元の人のために作り、地元値段で提供し、自ら管理しているものだ。
「地元」を強調したのは、バンコクによくある豪華な雰囲気のサウナをイメージされては困るから。この寺のサウナはまるで違う。
もしあなたが豪華さを求めず、ハーブがしっかり効いていれば良いという人なら、40種類ものタイハーブの成分を含んだ蒸気が充満し、バナナやベンジャミンの木に囲まれた民家風の佇まいの中にあるこのサウナはきっと満足することだろう。
ハーブサウナの責任者は60歳の女性。彼女に、なぜ40種類なのかと尋ねると、住職の処方によるものだという。これらのハーブは様々な病気の治療に有効で、特に呼吸器系疾患に効くそうだ。
それではさっそく入ってみよう。用意してきた短パンに履き替えたら、まずはサウナルームの前で冷たい水を浴びる。蒸気とハーブの香りが充満する部屋に入り5分も経つと、汗が滲み出てくるのが感じられる。
少ししたら、外の石のベンチに座り、ハーブの成分と熱が体になじむのを待つ。次のステップを進むためにね。その間は温かいハーブティーで口を湿らせるのもいい。準備ができたところで、甕に入った冷たい水を一気にかぶる! ザザーーーー……。
胸につかえていた「山」が、桶一杯の水でたちまち消えていった。
カジョンシリ寺ハーブサウナ ห้องอบสมุนไพร วัดขจรศิริ
場所:オンヌット・ソイ45
時間:13時~18時 無休
料金:40B/人
※サウナ用の着替えは各自持参。レンタルもあり(20B)
ぺー=シリパン・ジェンタラクールラート
旅人、37歳。ダコタイ語版4代目編集長(~2015年)。現在はタイの大手出版社にて編集スタッフを務める。ダコ本誌で2009年から2018年2月まで「屋台の細道」(全108回)を連載。