
ここしばらく、用事がなければほぼ室内で過ごしていた。その理由は、在タイの皆さんもご存知のとおり、PM2.5のせいだ。
バンコクの大気汚染は今に始まったことではない。タイ人はその危険性に気付いていなかったのか、さほど問題視していなかった。そしてPM2.5濃度が50μg/㎥に達した頃、やっと目が覚めた。それがこの2、3カ月のこと。SNSで健康への影響など情報を得やすくなったからだろう。その結果、マスクが品切れ状態となり、見向きもされなかった空気清浄機は一躍大ヒット商品となった。
沈静化する頃には2月も終わりに近づいていた。鬱陶しいマスクから解放されて真っ先に思い浮かんだのは、木陰に座って深呼吸することだった。
3月のとある昼下がり、僕は旧市街に当たるジャルンクルン地区にいた。目指すはミステリアスなレストラン。創業から30年にもなるというのに、タイ人には知名度の低い隠れ家的な店なんだ。
細い路地を進むと、さっそくミステリアスに遭遇した。大木のアーチだ。人が通り抜けられるほどの隙間を持つ、ガジュマルの気根。周辺には様々な置物が飾ってあり、神秘的ですらある。
一瞬、映画『千と千尋の神隠し』で不思議な森に迷い込んだ主人公と自分が重なった。神秘のアーチをくぐると、その先には驚きの光景が広がっていた。オマツリライトノキの枝が長く伸び、築100年はあろうかという古い中国式の建物にまとわりついているのだ。それが目的のレストラン「ハーモニック」。
骨董品店のような屋内席を背にして、僕は木陰が心地良い屋外席についた。視界を覆うように気根を伸ばした大木を眺めるために。
メニューには50以上ものタイ料理とフュージョン料理の写真が並び、散々迷った末に幾つかオードブルを注文した。まずは冷たいビールで乾ききった喉を潤す。それからゆっくりと深呼吸を繰り返し、マイナスイオンを胸いっぱいに溜め込んだ。ほんの少しでも肺が浄化されることを願いながら。
幸せというものは、時に意外と近くにあるものだ。たとえば、こんな木の下に。

ミステリアスなアーチに魅せられ、ガジュマルの虜になってしまった

ぺー=シリパン・ジェンタラクールラート
旅人、37歳。ダコタイ語版4代目編集長(~2015年)。現在はタイの大手出版社にて編集スタッフを務める。ダコ本誌で2009年から2018年2月まで「屋台の細道」(全108回)を連載。








