旅人ペーのバンコクご近所案内

【旅人ペーのバンコクご近所案内】My Mom vol.004

死よりも怖いもの
それは・・・・・・

僕には「死」より「老い」の方が格段に恐ろしい。子供の頃、老後の生活が恐怖だった。子供たちは仕事や結婚で家を出て、自分は家ですることもなく独りぼっち。友達と会う機会も減り、テレビを見て独り言を呟いたり植木に水をやったり、子や孫の訪問だけを楽しみに待つ日々。なんて退屈なのだろう。

38才の誕生日を迎えた先日、再び沸き起こったその思いに突き動かされ、とある場所を訪ねた。寂しがりやの老人にぴったりな場所だと、かねてより興味があったんだ。ここは老人ホームの敷地内にある食堂だ。すでに引退したお年寄りたちが切り盛りしている。

興味を引かれたのは、ここが引退生活者たちの溜まり場であること。「バーン・バンケー」という高齢者福祉開発センターの生涯学習講座で知り合ったマダムたちが、講座が終了しても集いを継続させたいと、団結してフライ返しを握り立ち上げた店だ。

店を切り盛りするマダムたち。

メンバーは6、7人。週に1、2回ずつ交代で店に立つ。食材の仕入れや調理、配膳など、役割もその日ごとに交代だ。料理はカオ・ムートート(揚げ豚のせご飯)やパット・ガパオ(バジル炒め)など定番の注文料理がほとんどだが、味はお墨付きだ。なにしろシェフは長年台所を守ってきた主婦たちなのだ。4カ月前にオープンしたばかりで、わずかテーブル4つの小さな店にも関わらず、「タイの母の味」を楽しみたい人々で大変なにぎわいを見せている。

供される品々もおふくろの味といった趣だ

食堂運営の目的は金銭ではない。ただ、心通じ合う引退者同士が一緒に過ごし、自分ができることをやり、引退は人生の終わりではないことを実感しただけだ。店が忙しくてもマダムたちは生き生きとしている。まるで疲れることが喜びのように。退屈な老後を恐れる僕のような人間は、この店を見て心が晴れるはずだ。友人を誘ってバーでも開けば楽しいんじゃないかな。

しかし伴侶を得た今、そんな機会はもう訪れないかもしれない。人生何が起こるかわからない。今からあれこれ悩んでも仕方ない。少なくとも今想像できる僕の老後は、静かで退屈なものではなさそうだ。こうして年をとっても喧嘩をする相手がいるのだから。

My Mom
ร้าน My Mom

場所:ペットカセーム・ソイ39/1の一本横のソイ
時間:10時~15時 土日休
料金:一皿30B(テイクアウト40B)


ぺー=シリパン・ジェンタラクールラート
旅人、37歳。ダコタイ語版4代目編集長(~2015年)。現在はタイの大手出版社にて編集スタッフを務める。ダコ本誌で2009年から2018年2月まで「屋台の細道」(全108回)を連載。

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