男と女の学際研究 ~現役学者が微笑みの国を考察!~
5人の現役研究者が「日本男とタイ女」をテーマに、いろいろな角度から考察する連載コラムです。
今回の著者:経営学 林拓也
日本男もタイ男も48系アイドル大好き!
竹本は本コラム第50回において48系モデルの世界展開を「ビジネスの仕組みを売り出す」日本発の新たな輸出モデルと述べていますが、それは本当でしょうか?
実はこのアイドル生産輸出モデルの下地を作ったのは韓国のSME(SMエンタテイメント)だと言えます。
秋元康がおニャン子クラブを作った1985年から11年後の1996年、SMEは男子グループ「H.O.T.」を生み出しましたが、これは韓国グループとして海外で初めてブレイクしたグループだと言われています。
翌年には女子アイドルグループ「S.E.S.」を結成し、同社は海外市場を戦略ターゲットとして明確化します。S.E.S.の大きな特徴はメンバーのキャスティングで、韓国、日本、アメリカ在住者をメンバーとし、グループとして多言語(韓国語、日本語、英語)を操れる様にした点です。各言語を担当する各々のメンバーは持ち場の海外市場でローカル言語を話し、メディアでの売り込みを成功させて行きました。
「少女時代」でひとつの完成をみたK-POP
このビジネスモデルの一つの到達点が2007年に生まれた「少女時代」で、韓国系アメリカ人、中国短期留学経験者、日本で一時期活動していた者などを加え、かつグループ名を漢字圏、東南アジア、英語圏で変えるなど、異文化融和したハイブリッド型グループでした。この様なアイドル生産輸出モデルがすでに韓国で確立したのを受け、秋元は2011年にJKT48を作り出し、アジアへの海外進出展開を加速させて行ったとも言えるのではないでしょうか。
少女時代のセカンドアルバム『Oh!』が台湾、フィリピン、タイの各音楽チャートで第1位を獲得したのが2010年ですから、秋元がSMEの海外戦略の歴史から大きな影響を受けたことは否定できないことでしょう。
48系グループとSMEの違い?
BNK48では伊豆田莉奈がAKB48から「駐在派遣」され、大久保美織は「現地採用」、花見咲知弥は日タイハーフとしてメンバーになり、日本女とタイ女のハイブリッド型グループになっていますが、これらのアイデアはいずれも既にSMEの海外戦略に見られるものでした。しかし48系モデルとSMEのそれと大きく異なる点は、前者は48系グループ間で人材の交換可能性があり、より強いハイブリッドとなっている点です。
近年ダイバーシティ・マネジメントの重要性が異文化経営学の分野では強く叫ばれていますが、音楽業界の方が製造業よりもずっとスピード感があるのかもしれませんね。
(参考文献)
「SMエンタテイメントのグローバル戦略と日本市場」橘川武郎ほか編(2015)『アジアの企業間競争』文眞堂