男と女の学際研究 ~現役学者が微笑みの国を考察!~
5人の現役研究者が「日本男とタイ女」をテーマに、いろいろな角度から考察する連載コラムです。
文化人類学 齋藤 大輔
前回で片山は映画『クーカム(運命の相手)』に関して「ハビトゥス(その社会で望ましいとされる身のこなし方)」という側面から分析していました。それを踏襲しつつ、少し異なった視点を提供したいと思います。
アンスマリンが惚れた理由
物 語の中で、日本人将校・コボリは、当初はアンスマリンに相手にされなくても一途に想い、アプローチし続けています。そして、その言動や態度は一貫して「コ ン・リアプローイ」(礼儀正しい、きちんとした人)として描かれています。そのようなコボリに、アンスマリンが徐々に惹かれていくのです。
実際に、タイにおける男女関係のあらゆる場面で、この「リアプローイ」(礼儀正しさ、きちんとしている)は、求められる重要な資質の一つです。
たとえば、髪型やシャツにきちんとアイロンをかけるといった外見だけではなく、相手に対する言葉使いや食事の際に料理を取り分けるといった慣習の領域にも表れています。このような男性を実際にタイで目にすることは珍しくないと思います。
この男性の「リアプローイ」は、タイ社会で良しとされるハビトゥスの一つであると言えます。そして、フランスの社会学者ピエール・ブルデューの指摘にあるように、個人の立ち位置を示す記号ともなっているのです。
そう考えると、上流階級のアンスマリンは、常にコボリを見ていて、コボリが「リアプローイ」で自分に「ふさわしい」から選んだと読むこともできます。
リアプローイでゲット率UP?
この点は、日本人男には理解しにくいところかもしれません。個人差はあると思いますが、日本人男にとっては「そこまでしなきゃいけないの?」と感じるかもしれません。
た だ『クーカム』における理想の男性像は、「外国人」であるコボリが実践することでさらに強調されています。この点を援用して考えると、日本人男が今より少 しでも「リアプローイ」に振る舞うことができれば、意中の相手を振り向かせる可能性はぐんと上がるのではないでしょうか。日本人男はタイ女から選択される 側でもあるからです。
参考文献:ピエール・ブルデュー『ディスタンクシオンⅠ』石井洋二郎訳 藤原書店 1989
今回は前回の片山先生の教え子にゲスト出演いただきました。