いつもの通り自転車を駆り駐車場のスロープを下りながら左をさっと見て右折し、編集部へ向かいました。
すぐ近くに工事現場があり、アパートでも建ちそうなのですが、目の隅にチラッと動くものがあったのです。
気になって引き返すと
若鶏が足元に注意しながらのんびり歩いていました。
工事現場の人たちには田舎や近隣諸国から駆り出され、現場に掘っ建て小屋を建てて生活しながら危険な作業に従事する人もいます。そうか、物価上昇のおり、食料も自給自足するんだと感心していました。
するとどこからか工事現場の少女が現れました。
一応、聞いてみよう。
「鶏だね」
「そう」
「どっかから紛れ込んだの?」
「ううん。あたいの」
「育ててるの?」
「うん」
「食料?」
「ううん。食べない」
「あとで食べるでしょ」
「この子は可愛いから食べない」
「鶏は食べるの?」
「他の鶏は食べるけど、この子は食べない」
「写真撮っていい?」
しばらくして
「大きくなったら食べるでしょ」
「食べない。可愛いから」
少女が唇をすぼめてチュチュチュと呼ぶと鶏は少女の元へ。
「可愛いね」
そう告げて自転車にまたがった。
(可愛いから食べない)
という少女の一言がずっと頭に残った。
いつかだれかに締められ、彼女も知らずに食べるかもしれない。
鶏は好きだけどこの子は可愛いから食べない。
儚き鶏の命運。
鶏の飯場に声が見え隠れ
(ぬまだてみきお)