男と女の学際研究 ~現役学者が微笑みの国を考察!~
4人の現役研究者が「日本男とタイ女」をテーマに、いろいろな角度から考察する連載コラムです。
今回の著者:文化人類学 片山 隆裕
性産業のイメージがつきまとう
日本人をはじめとする先進国の男性たちの、タイ人女性に対するまなざしが、セクシュアリティを強調したオリエンタリズム色の濃いものであったこと、すなわち、性産業との関わりを通してタイ人女性イメージが再生産されてきたことは議論の余地がないところです。
1920年代前後、一夫多妻制を否定して単婚を法制化する議論が行われ、文明国タイにふさわしい婚姻や女性の在り方が論じられましたが、その折「妻たる良き女性/性に携わる悪しき女性」の二分化が明確になりました。
国際連盟の圧力もあり、1928年に強制売春と児童買春を規制する法律が出されましたが実効性の伴わないものでしたし、1960年には売春抑止法が出されたにも関わらず、ベトナム戦争当時、タイ政府がアメリカ軍と結んだ「Rest & Recreation協定」による売春施設の多様化や、建前では抑止しながら、事実上、容認/奨励するといったダブルスタンダードが、抑止法を有名無実なものにしてきました。
そして、1980年代後半以降のエイズ問題によって、タイ人女性イメージはさらに負の要素を帯びていきます。
近年は一歩踏み込んだ研究も
しかし、こうしたセクシュアリティの側面から見たタイ人女性に関しても、その文脈を重視したり、実態をより緻密に捉えたりする研究が出てきました。
パスック(1982)はバンコクの売春女性を農村女性の搾取の問題と捉え、売春をタイ社会の構造的問題、特に開発政策の歪みの結果と捉えました。
オザー(1994)は外国人相手のバーが立ち並ぶパッポンの売春女性たちが、売春に関わらないタイの下層女性たちに比べて、グローバルな人々との関わりの中で自立の機会に恵まれていると肯定的に捉え議論を呼びました。
「イメージ」の背後にあるこうした文脈や実態を読みとる姿勢は、日本男とタイ女を語る場合においても大切なことですね。
参考文献:参考文献:速水洋子「他者化するまなざしの交錯の中でータイ」 宇田川妙子・中谷文美編『ジェンダー人類学を読む』 世界思想社 2007年