男と女の学際研究 ~現役学者が微笑みの国を考察!~
4人の現役研究者が「日本男とタイ女」をテーマに、いろいろな角度から考察する連載コラムです。
今回の著者:文化人類学 片山 隆裕
日本は男児選好から女児選好へ
親や社会が男女どちらの子供を欲しがるかは、「性別選好」と言われ、男児選好、女児選好、バランス選好などがあります。
日本では明治期以降、男子優先、長幼の序、戸主権の優越性などを特徴とする家制度の色彩が濃かったこともあり、後継ぎとしての男児を望む傾向が続いてきました。
しかし、厚生労働省人口問題研究所の「出生動向基本調査」の「理想子供の数別にみた、理想の男女児組み合わせ別夫婦割合」を見ると、例えば「子供一人の場合は女児」と答える夫婦が1980年代を境に増加し、ここ20年余りその割合は70%前後で推移するなど、女児選好の傾向が定着してきているようにも思えます。
その理由としては、従来の家族や社会のあり方の変化に加えて、「育てやすい」「可愛い」「習い事やおしゃれをさせたい」といった女児への情緒的期待があるようです。
「男は象の前足、女は象の後ろ足」といわれるタイだが……
タイでは、ジェンダーを語るとき「男は象の前足で、女は象の後ろ足」というメタファーが用いられ、象の前足のように社会を牽引する男性への役割期待がありますが、一方で、女児選好の傾向も指摘されています。
その理由として、①出自・先祖意識の希薄さ、②姓を用いる伝統の希薄さ、③老親扶養の女児への伝統的期待、④妻方居住の慣習、⑤女性の経済的役割の重要性などが挙げられています。
私がかつて、チェンマイ県N村で67組の夫婦に対して実施した性別選好の調査では、女児選好・男児選好の割合はほぼ拮抗していましたが、女児選好を志向する夫婦が上述のような理由を挙げるのに対して、男児選好の夫婦は、「息子だと僧侶になれるし、息子本人や親が徳を積める」という宗教的役割への期待が強くみられました(片山1996)。
社会経済状況や仏教を取り巻く環境の変化が、今後のタイ人の性別選好にどのような影響をもたらすのか、興味深いところです。
参考文献:片山隆裕 1996「男が象の前足で女は象の後ろ足か?~北タイ農民の「語り」にみるジェンダー」、坂元一光 1999「アジアにおける子どものジェンダー」
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かたやま・たかひろ
九州大学大学院博士後期課程退学。ニューヨーク州立大学大学院留学。タイ国立チェンマイ大学、チュラーロンコーン大学客員教授などを経て、現在、西南学院大学国際文化学部長・教授。専門は文化人類学、東南アジア研究。 |