予期せぬトラブルが起きた時、どのような対応をすればいいのか知っておくだけでもその後の行動が変わってきますよね。場面ごとに異なる各種手続きの流れをご紹介していきます。
どうする?予期せぬケガや事故
タイは比較的治安も良く暮らしやすいとはいえ、やはり日本人にとってはどこまでいっても外国です。病気やケガをはじめ、事故や万が一の不幸が身の回りで起こった時、しかるべき手続きや立ち回りに迫られる場面に対応しなければいけません。
しかしながら、日本にいる時とは対応も大きく異なります。仮に各種保険に入っているからといっても、アクシデントの内容次第では日本のように「すべて保険担当者にお任せ!」という受け身の対応では処理が完了しないこともあります。また、自分が加入している保険担当者への報告が遅くなってしまったばかりに、結果的に自分に損な条件が降りかかったり、経済的な損害を被る可能性もあります。
事故に遭った場合に加えて、事故を起こしてしまった場合はどうすればいいのか。動揺して相手に捲し立てられ、不当な支払いをしてしまっていないか。「どうしたらいいかよく分からず、対応できなかった……」と後で悔やまないために、そして損をしないために、自分や家族の身にもしものことが起こった場合は、段取りをしっかり踏まえ、無理や無駄がないよう事前に情報を集め、落ち着いて対応したいところ。いざという時に焦らないために、確認しておきましょう!
1. 「病気・ケガ」の保険の手続き
病気やケガで病院に行く場合、日本であれば国民健康保険などの公的な保険で受診可能ですが、タイでは自分で契約している保険を使っての診療となります。初診で病院にかかる場合や、緊急で病院に担ぎ込まれ入院などをする場合も含めて基本的には全て同じルールです。自分が加入している医療保険が使えるかどうかは、診てもらった医師の見立てで決定します。
取材協力:Allianz Ayudhya・日本人向けサービス担当マネージャー/ピムラダーさん
例:軽いやけど
かかりつけ医のいる病院に自力で行く場合で考えてみましょう。加入している保険があれば、その保険証を持参しましょう。窓口で提出して、外来を受診します。
1:保険証を持参し、タクシーを呼ぶ
かかりつけ医のいる病院を目指します。 もし自分の傷病が保険に適用されるのか不安な場合は、病院に行く前に保険会社に確認しましょう 。基本的には医師の診断により保険適用内かどうか正しく判断されますが、保険会社でもおおよそのことはわかります。
2:受診する/保険に適用されるかどうか医師に確認
すでに診察券のあるかかりつけの病院の受付で保険証を提示し、皮膚科の外来を受診したとします。医師の診断の後、処置を受け、今後の治療方法・治療方針について話があります。医師もしくは看護師から受ける説明は、注意深く耳を傾けましょう。病院で通訳が頼める場合は依頼し、その内容を覚えている自信がなければ了承を得て録音しておくといいでしょう。
※医師の診断後に保険適用の項目について疑問が生じた場合は、保険会社に確認するのが◎。
3:会計
自己負担する分の金額を会計で支払い、次の診察日の予約を取ります。気をつけたいのは、 外来受診日当日は保険適用で控除が受けられる疾病やケガでも、その種類によっては治療の間に保険適用から外される場合があること。
完治まで保険が適用される場合は特に心配がありませんが、軽傷となったのちの診察で100%自己負担の見立てに切り替わった場合は、その後で同じ病院の医師、もしくは別の病院の医師のセカンドオピニオンを取ったり、現在通院している病院の診察予約を辞退したりすることも検討しましょう。
保険に入っていない場合、入院や検査のお金はどうなるの?
良くも悪くも、タイの病院は金額次第で治療内容が決まると言われています。特に私立病院は顕著で、診察内容も保険や診察費用の額面で判断されることも。「病院が完全に営利目的である」ということは、国民皆保険制度のある日本人にとっては受け入れ難いかもしれませんね。
⃝入院する場合
もし保険に入っていなくて入院することとなった場合、クレジットカードを持っているかどうかをまず聞かれます。お金の引き落としは短い日数(2日に1回ごとなど)で行われるのが一般的です。
⃝検査をする場合
例えばMRIやレントゲンなど専門家にしか判断できないような検査内容を実施するしないについても、 まずは金額の支払いが可能かが争点になります。 自ら支払える金額の検査を選んで、依頼しなければなりません。
例えばA・B・Cの検査があって、自分が受けた方がいいと思って選択したAの検査で原因が分からず、けれど追加検査を受ける資金がなくそのまま……ということも十分起こりえます。このように、懐が心もとないというだけで、適切な検査を受けそびれる可能性も十分あり得るのです。
2. 「交通事故」の保険の手続き
交通事故に遭ってしまった場合、 日本では警察で調書を取ってもらい保険会社へ連絡。加害者と被害者双方が保険に入っている場合は、保険会社同士で連絡を取り合った後に保険料の請求や支払いに応じます。タイでの手続きも大枠は日本と似ていますが、そこはやはり外国。諸々の事情が異なるのです。
例:軽傷の場合
1:加入している保険会社にその場で連絡する
車同士を軽くぶつけてしまったなどのケガが伴わない場合、まずは双方が加入している保険会社に電話をかけましょう。しかしタイの場合、交通事故を起こした相手が無免許・無保険ということもあり得ます。たとえ自分が被害者だったとしても、相手が保険に加入していなければこちらの保険で処理を行うことがあることも覚えておきましょう。
2:現場の状況を詳しく説明する
保険会社のスタッフは、現場での言葉の壁を仲裁してくれる助っ人としても大変力になってくれます。タイでは事故が小規模の場合、その場で保険会社同士の話し合いのもと示談にするということも少なからずあるようです。
3:治療が必要な場合は病院へ
基本的にタイで使える医療保険や傷害保険はケガの場合は治療中、物損の場合は修理中の段階で見積もりを取り、保険額との相殺の上その都度支払いを行います。国民健康保険の海外療養費の支給制度を使う場合は、帰国時に遡っての請求となるため返金には時間がかかります。
重傷・重体の場合はどうすればいい?
「事故に巻き込まれて意識不明のまま病院に担ぎ込まれ、気が付いたら見慣れない病院のベッドの上だった……」というケースはどうなるのでしょう。事故後に現場調書が取れていない場合は、タイの警察が病院まで調書を取りにくることもあります。 この際に注意したいのが、保険会社に連絡する前に警察の書類に安易にサインをしないこと。 作成する書類は全てタイ語で書かれているため、多くの日本人はそこに書かれている意味を完全に把握できません。安易にサインしてしまうとトラブルの原因になります。必ず保険会社のスタッフや通訳者、もしくはタイ語が分かる第三者や弁護士を通じて、調書の内容を完全に理解してからサインに応じてください。特に、自分が被害者で相手に応じてもらう場合、相手の言い分と警察の書類の書き方に齟齬がないか注意が必要です。
無保険で事故を起こしてしまった場合の対処法
海外での保険会社を介さない事故対応は言葉の壁もあり、トラブルに発展してしまうケースが少なくないため、やはり弁護士を立てるのが賢明です。在タイ大使館では、タイ国内のトラブルに関して弁護士や通訳の情報を希望者に提供しているとのこと。※なお、私的な争いの仲裁や訴訟への介入などはできかねるとのこと。また弁護士とのやり取りに関わる手続きや費用は、ご自身での負担になります。(取材協力:在タイ日本国大使館)
3. 「死亡」の保険の手続き
タイで息を引き取られた場合、医師から死亡診断書を書いてもらったり、死亡証明書を作成しなければならなかったりと遺族はショックを抱えながらも事務的な処理に対応しなければいけません。手続きのことで不明点があったら、すぐ在タイ日本大使館に相談しましょう。
取材協力:Allianz Ayudhya・日本人向けサービス担当マネージャー/ピムラダーさん
1:医師に診断書を書いてもらう
2:保険会社に連絡する
ご家族が亡くなった場合、今後の手続きに関して保険会社が病院とのやり取りを助けてくれますので、できるだけ早く連絡を取りましょう。実費を含め、保険補償額に応じて手続きやその後の段取りも変わってきます。日本で海外旅行保険や駐在員保険に申し込んで加入していた場合、多くの保険では以下の費用が保障されます。
○操作救助費用
○現地までの航空運賃など往復の運賃
○現地および現地までの行程におけるホテルの宿泊費
○現地から遺体輸送費用の300万円上限
○遺体処理費用 他
※内容は加入している保険会社によって異なるので、加入時によく確かめておきましょう。
3:「死亡登録証(モラナバット)」を取得する
警察の死亡報告書、病院の死亡診断書、警察病院の検死報告書といった死亡を証明する書類を入手して、死亡した際にいた場所を管轄する区(郡)役場に書類(死亡を証明する書類や本人の旅券など)を持参し、死亡登録証を取得するための手続きを行います。
※「死亡登録証」の原本は、再発行ができないため保管には注意が必要です。
○病院での手続きについて
届け出に必要な書類、病院発行の死亡証明書もしくは解剖医による解剖所見、パスポートを用意します。その際、遺体搬送の希望地の費用は海外旅行保険を利用するか、葬儀会社に依頼するかなどについても確認され、タイで火葬する場合はお寺の名前も問われます。
○死亡時間までしっかりと記載
死亡登録証には、死亡日の他にその時分まで漏れなく記入してもらうよう依頼しましょう。なぜなら時分の特定がないと、相続関係に支障を来たす場合があるからです。
故人のタイでの財産はどうなるの?
故人の遺産は、基本的に事前に作成した書類などがなければ第三者が引き継ぐことはできません。これらはタイの法律によって管理されていますので、日本のようにすんなり相続手続きに移ることができず、遺族が故人のお金を引き出すことすら原則的に難しいです。
また、 日本人(外国人)はタイで正式な書類として認められる「遺言書」の効力がないため、日本国内で作成しておく必要があります。 故人のもとに遺言書がなく、タイで亡くなった方の財産を引き継ぐ場合、専門の弁護士に相談する形になり、その費用は100万円ほどかかります。こういった複雑なやり取りを避けるためにも、自分自身で事前にやっておけることを確認しておきましょう。
○銀行口座
生前のうちに、残された人に向けて情報を整理しておくのがベスト。まずは自分が今使用している銀行窓口の担当者に、自分が死亡した場合の手続きについてどうすればいいのか相談してみましょう。また遺書がない場合、原則は法定相続人である妻・子ども・父母が相続の手続きをすることになりますが、口座の解約や名義変更には関係性を証明する書類などが必要になるので確認しておきましょう。
○遺族年金
タイ人のパートナーがいる日本人が亡くなった場合、国籍が違っていても条件を満たせば遺族年金を受け取ることができます。しかし、手続きは言葉の壁もあり複雑です。まずは行政書士に事前に相談をしておくこと、そして共済組合などに加盟し、遺族共済の受け取りを含めた金銭面でのサポート体制を築いておくことが大切です。
○遺産相続
タイでコンドミニアムなどを所有し、それを相続したい場合、生前にタイと日本の法律に照らし合わせた遺言書作成(公証人証明)をしておかなくてはなりません。専門の法律家に相談し、作成費用を支払って整えておくのが一般的です。