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男と女の学際研究 ~現役学者が微笑みの国を考察!~
5人の現役研究者が「日本男とタイ女」をテーマに、いろいろな角度から考察する連載コラムです。
今回の著者:文化人類学 片山隆裕
1985年のプラザ合意によって急激な円高が進み、日系企業によるタイへの投資が増加し始めていた時期に、私はタイ研究を始めました。
当時、たまたまバンコクの書店で見かけた芸能誌に、ジャニーズ事務所所属の「少年隊」をはじめ、何人もの日本人タレントたちが載っているのを目にして驚いたことを覚えています。日本のアニメ・漫画「ドラえもん」「一休さん」や日本のドラマ「おしん」も、タイで人気を博していました。
「日本大使の娘・ユウコ」
ちょうどその頃、一人のタイ人少女がタイ社会で話題となっていました。タイ最北部の農村からバンコクに出てきた13歳のタイ人少女は、自分は「日本大使の娘・ユウコ」と名乗りました。「ユウコ」は「おしん」の主演女優の名前でした。
「ユウコ」-本名カンティア・アサヨット-はバンコク市内のスポーツ・スタジアムの管理人から小遣いをせしめ、ラムカムヘン大学の学生に取り入って面倒を見てもらい、学生の帰省に同行して、警察官の護衛の下、地方視察までやってのけました。カタコトの日本語で日本事情について説明し、日本人の勤勉さについて演説までしたそうです。約100日間にわたって周囲を騙し続けた彼女も、その後正体が露見してしまいます。
この事件から、スリチャイ・ワンゲーオ教授(チュラロンコン大学)は、タイ社会にいかに日本が影響を与えているかを述べています。「ユウコ事件」の後、1990年代以降、日本のタイへの経済進出がさらに進み、2017年時点では5444社の日系企業がタイに進出しています(ジェトロバンコク事務所「タイ日系企業進出動向調査」2017年10月)。
この経済進出のプロセスでは、日本の文化コンテンツの流入もさらに盛んになっていきますが、そのことがタイの人々の日本への関心をさらに高めることになり、ひいてはタイと日本の経済的結びつきを一段と強化することにもつながっていきます。日本のアニメ・漫画やドラマ人気もそうですし、ジャニーズ事務所をはじめ、日本の芸能事務所所属タレントたちの活動もそのひとつと考えられます。
ジャニーズアイドルのタイ進出
1980年代後半からタイに進出していたジャニーズ事務所は、2002年にはタイの大手音楽会社「GMM Grammy」と提携し、「NEWS」の山下智久がタイの「Golf & Mike」とユニットを形成、さらに2005年には「タッキー&翼」がタイ語版のシングル「VENUS」をリリースし、タイ女性たちの間で人気を博しました。
この間、タイでは都市中間層が拡大し、外国製品や日本の文化コンテンツを受け入れる余地がさらに広がっていきました。2013年、チュラロンコン大学文学部の客員研究員だった私は、日本語を学ぶタイ人女子学生約100人に日本文化に関するアンケート調査を実施したのですが、好きな日本人男性タレント・グループを尋ねたところ、1位 嵐、2位 山下智久、3位 Hey Say Jumpなど、軒並みジャニーズ事務所所属のタレントが名を連ねていました。
この調査結果は、現在でも「ジャニーズ」のタレントたちが、現代タイにおける都市中間層の学歴エリートをはじめ、タイ女子たちの中で人気を博していることの証のひとつだと考えられるかもしれません。
(参考資料: 吉岡忍「日本人ごっこ」文春文庫 1993年、鈴木規之「タイにおけるジャパナイゼーションのプロセス(一)(二)」(『人間科学』21号、22号 2008年)