ライフ

タイの孤児たちの「生きる」を支えて25年。日本人親子の波乱万丈な軌跡【2】


【1】はこちら。

「買って支援、泊まって支援」

2001年、バーンロムサイは自立運営への第一歩を踏み出す。当初は小さな試みだった。

施設の子どもたちが着る「タイシャツ」を大人サイズに仕立て直し、施設の庭に生える草木で染めた手作り商品を作った。

「葉山の海の家の一角を借りて販売したり、チャリティバザーに出展したりして、少しずつ資金集めを始めました」

2003年、縫製スタッフをひとり雇用し、地域の伝統技術や豊かな素材を生かした衣類や雑貨など、本格的なものづくりを開始。

2004年には、宿泊業も動き出す。ジョルジオ・アルマーニ氏の支援で完成したプールの脇に、支援者の寄付で宿泊施設「hoshihana village」の第1棟が誕生した。

ジョルジオ・アルマーニ氏の支援で完成したプール

 

掲げたスローガンは、「買って支援、泊まって支援」。

「母が現場監督として指揮を執り、私はゲストハウスの設計や、大工さんへの依頼などを担当していました。仲間たちと協力し合いながら、一つひとつ形にしていくのは本当に楽しかったです」

2009年には、美和さんが「公益財団法人 社会貢献支援財団」より、社会貢献者として受賞。同年、hoshihanaのプールを舞台にした邦画「プール」の上映も重なり、メディア露出が増えて知名度が拡大し、寄付金も宿泊客も増加した。

子どもたちが、住み込みの日本人ボランティアを「ポー(お父さん)」「メー(お母さん)」と慕い、無邪気に甘えて抱きつく――そんな光景が日常となっていった。

東日本大震災で揺らいだ基盤

順調に見えた自立運営への道だったが、2011年3月11日、東日本大震災が起きる。日本からの寄付金は東北の被災地に向かい、バーンロムサイへの支援は激減。

当時、収益の7割を寄付に依存していた施設は、存続の危機に立たされた。

この窮地を打開するため、名取親子は事業戦略を根本から再構築した。モノづくり事業を単なるチャリティグッズの域から脱却させ、「ブランドとしての価値」を持つ本格的な製品開発へと踏み出す。

美穂さんは、それまで本業の傍らで活動していたが、2012年からバーンロムサイの事業に全精力を注ぐことを決意。衣類や雑貨の素材の質を徹底的に高め、洗練されたデザイン性を追求するとともに、販売網を日本全国へと拡大していった。

現地の買い付け品や一点ものの雑貨など、オリジナルアイテムを販売

 

宿泊事業も大きく前進する。2019年には新コテージが完成し、約2万平米の広大な敷地に、自然と静寂が融合する11棟のコテージが誕生。これを契機に、本格的なリゾートホテルとしての宣伝活動にも着手した。

各コテージでは、マッサージやサウナ、地元の食材を活かした料理、人懐こい猫たちとの触れ合いを満喫できる。こうした独自の魅力が旅行者の心を捉え、ハイシーズンには満室になるほどの人気施設へと成長した。

その結果、数年かけて収益構造は逆転。寄付25%、自主事業75%という、より安定した運営基盤を築きつつあった。

ところが、誰もが予想しないさらなる試練が忍び寄っていた――。

コロナ禍で存続の危機

2020年3月、世界を一変させる危機が訪れる。

「まるで時が止まったようでした」

新型コロナウイルスの猛威は、バーンロムサイにも容赦なく襲いかかった。タイ政府が外国人の入国を厳しく制限し、宿の予約はすべてキャンセル。物販の売れ行きも落ち込んだ。

5月末、hoshihana villageの休業を決断。6月には縫製工場の操業も停止し、苦楽を共にしてきた従業員を解雇せざるを得なくなった。チェンマイの施設には美和さん一人が残り、子どもたちの世話を続けた。

美穂さんは、当時をこう振り返る。

「私は国境をこえられなくて、日本からオンラインでのやりとりしかできなかったんです。縫製作業の最終日に、母からスタッフの集合写真が送られてきて……あの時は本当に辛かった」

宿泊業の収入が完全に途絶えるなか、再び寄付への依存度が高まり、収益構造は寄付55%、物販45%へと逆戻り。かつて築き上げた経営基盤は大きく揺らぎ、資金繰りは危機的状況に陥った。だが、二人の意思は揺るがなかった。

「やめるという選択肢はなかったですね。むしろ、なにがあってもこの施設だけは守ろうと、強く思いました。絶対に復活させて、みんなを呼び戻すと」

再起を賭けた2年間

そこからは耐え忍ぶ日々。長年コツコツと積み立ててきた「子ども命基金」を切り崩しながら施設を維持し、オンライン活動に注力した。

新たな試みとして、シニア層向けの通販カタログを制作。さらに活路を見出すべく、日本の職人や工場と連携し、初めて国内製造によるオーガニックや綿麻アイテムの販売をスタートさせた。

開店3年目のバーンロムサイ鎌倉店(現在も同じ場所で営業中)

 

2年の歳月が流れた――。

2022年、ようやくモノづくり事業が再開。同年9月には、宿泊業も「resort hoshihana」としてリニューアルオープンを果たす。

ミャンマーの少数民族出身のスタッフの多くは内戦で連絡が途絶え、開園当初からのタイ人スタッフや新任の日本人マネージャーを含む4名での再出発となった。

静まり返っていた施設に、再びゲストの笑い声が戻ってきた。

「2年半ぶりに予約が入り始めた時は、胸がいっぱいでした。ただ、今もまだ宿の稼働率は半分以下ですし、為替の影響で日本円でのご支援も厳しい状況が続いています。みんなで力合わせて、一歩ずつ前に進んでいるところです」

【3】へ続く。

(取材・文/日向みく)


名取美和さんが受賞した「社会貢献者表彰」とは

「社会貢献者表彰」では、広く社会のため、人のために尽くされている方を募集しています。

公益財団法人社会貢献支援財団は、1971年(昭和46年)より「社会貢献者表彰」事業を始め、毎年表彰を行っています。この表彰は、国内外において社会と人々の安寧・幸福のために尽力し、顕著な功績を挙げながらも報われる機会の少なかった方々を讃えるものです。 表彰対象者の選定は、一般の方からの推薦に基づいて行われます。皆さまからの推薦を心よりお待ちしております。

<対象となる功績>

● 困難な状況の中で努力し、社会の安寧や幸福のために尽くされた功績
● 先駆性、独自性、模範性などを備えた活動により、社会に尽くされた功績
● 海の安全や環境保全、山や川などの自然環境や絶滅危惧種などの希少動物の保護に尽くされた功績
など

推薦方法の詳細は当財団のウェブサイトをご覧になるか事務局までお問い合わせください。
WEB:www.fesco.or.jp
推薦フォーム

<候補者について>

●年齢・職業・性別・信条などの制限はありません。
●日本で活躍する方、もしくは海外で活躍する日本人を対象とします。

公益財団法人 社会貢献支援財団

WEB:www.fesco.or.jp
Facebook:www.facebook.com/fescojp
E-mail:fesco@fesco.or.jp


バーンロムサイ

WEB:www.banromsai.jp
Facebook:www.facebook.com/banromsai

 新着記事を読む 

関連記事

  1. 130万Bをくれた北浦さん【BTS直結・複合開発施設Whizdo…
  2. 【残席わずか】ヘーベルハウス住まいづくりの相談会@ホテルJALC…
  3. 通勤時間0分!快適な住まいとコワーキングスペース&サービスオフィ…
  4. さらにパワーアップしたお得なイタリアン・ブッフェ・ランチ「メディ…
  5. Berlitz(ベルリッツ)タイ・バンコク・スクムビット校の生徒…
  6. 設立50周年記念!バンコク病院リレーコラム 02 〜外科医・Th…

オススメ記事

  1. 137ピラーズホテル27階から絶景を眺めながら楽しむ極上のタイ家庭料理【ニミット レストラン&ルーフトップバー】
  2. 【ゴッドハンド先生の治療院】「てしまSEITAI」と「てしまクリニック」がプロムポンにて統合! 駅近で、保険診療にも対応してくれる【てしまクリニック】
  3. AVELA clinic_1 バンコクの美容クリニックの選び方 〜タイ屈指のエリート医師に学ぶ〜 本気で痩せたい、たるみを失くしたい…なら、クリニック選びが肝心
  4. Odashi hakkei Oden 「おだし八景」のおでんが美味しい理由。バンコクで本格和食に舌鼓。
  5. 【タイに住む日本人】八代 健さん インタビュー(オーシャン・フォトグラファー/プーケット・パンガー県) 

最新のTHB-JPY

PAGE TOP