最近、僕はよく異世界に行っている。仕事で日本の漫画やライトノベルの翻訳を扱っていて、読者層であるタイの若者に人気のジャンルが異世界ファンタジーものだから、僕もよく活字を通してその世界に迷い込む。楽しいといえば楽しいが、飽きる。なぜこのジャンルが人気なのか理解に苦しみつつ、僕のような中年向けでないのだから仕方がない。
それはさておき、だれでも自分だけのお気に入りの世界があるだろう。僕の世界は映画館の中にある。暗闇に包まれ、大きなスクリーンに映し出される悲喜交々の世界だ。
そこで今回は、映画館を紹介したい。シネコンのような巨大なものではない、ミニシアターだ。大手が上映しないインディペンデント系の作品や国内外の隠れた名作を上映する貴重な映画館で、珍しい物好きの映画ファンがよく足を運んでいる。独立系作品を上映することで、製作者たちのサポートをすることにもなるしね。チケット収入は映画館と製作側で折半しているという。
運営しているのは、タイ人2人とオーストラリア人1人で構成された「Threelogy」というグループ。映画好きというだけでなく、様々なフェスで映画を上映してきた経験とデザイン畑で磨いたスキルを持つ3人が、タイの乏しいミニシアター事情を知り、立ち上げたんだ。
とはいえ独立系一辺倒ではなく、マイナー作品ではあるが新作も上映しているよ。日本はもとよりアジアやヨーロッパ、貴重な北朝鮮の作品も紹介したことがある。随分前になるが、『ゴジラ』の第1作も上映していた。1954年公開のモノクロ作品だ。
僕が最も惹かれるのは、50年代といった古典も扱っている点。先日はなんと、オードリー・ヘプバーン特集をやっていたんだ。なにを隠そう、僕はオードリーの大ファンなのだ。
座席数は52。デジタル4K対応で音響も大手映画館と遜色ない。料金はタイ人には高く感じるが、芸術作品として視野を広げることができ、なおかつ無名のアーティストたちをサポートできると思えば、そんなでもない。そして、このプライベート感がたまらない。併設のバーからドリンクを持ち込むことも可能だ。冷たいドリンクを手にしたら、異世界の旅に出発だ。
Bangkok Screening Room
場所:Woof Packビル2階 ソイ・サラデーン1
電話:09-0906-3888
時間:火~金:15時半~23時(3回/日)、土日:11時~23時(5回/日) 月休
料金:300B(新作)、200B(旧作)
Web:http://bkksr.com
ぺー=シリパン・ジェンタラクールラート
旅人、37歳。ダコタイ語版4代目編集長(~2015年)。現在はタイの大手出版社にて編集スタッフを務める。ダコ本誌で2009年から2018年2月まで「屋台の細道」(全108回)を連載。