国際派に格上げされたヤー・ドーン
アルコール好きの僕だが、実はタイの酒にはなじみがなかった。とりわけ「ヤー・ドーン」には。
ヤー・ドーンとはハーブや爬虫類などを漬けこんだタイの薬味酒で、小さな露店にガラスジャーをずらりと並べて販売していることが多い。代表的なのはサソリやムカデ、コブラ。精力増進や滋養強壮に効くと信じられているようだ。
通常はショット売りで、オンザロックやストレートで飲む。2、3杯も飲めばひっくり返るほど強烈な上に、精力剤という怪しいイメージ、気味の悪いビジュアルという3拍子が揃い、今まで都会では敬遠されてきた。ところが、そのイメージを覆したのが「スタジオ・ラム」。ポップなドリンクとして新境地を開いたんだ。
瓶の中はバナナやイチゴ、マンゴーなどの果物、そしてレモングラスやショウガなどのハーブ。カクテルもあるというから、興味が湧かないはずがない。
女性バーテンダーにすすめられた1杯は、タマリンド(マカーム)をチェンマイ産ラムに約1カ月間漬け込んだ「マカーム」(オンザロック180B)。20種あるヤードーンの中でも人気の逸品という。従来のヤー・ドーンのイメージを振り払い、一気にグラスを傾けた。
ラムはウォッカと同じでアルコール度数40%。一瞬苦い顔になってしまったが、すぐにマカームの強烈な甘い香りとまろやかな舌触りに意識を奪われた。その後、急激に訪れた「覚醒」。ソンクラーンで冷水の不意打ちをくらったような衝撃だ。
こうしているうちにも、平日だというのに店内が混雑し始めた。ミュージックバーとしても評判で、外国人常連客も多い。DJが日替わりでソウルやファンクなど、個性的な選曲で楽しませるほか、音楽イベントも行っている。ヨーロッパツアーを行う国際派モーラムバンド「パラダイス・バンコク」も毎週出演しているんだ。音楽に合わせて頭を揺らしていると、徐々にアルコールが効いてきた。
ポップに、国際派に格上げされても、ヤー・ドーンはヤー・ドーン。うっかり杯を重ねると危険だ。本当はもっと飲みたいところだが、オンザロックでひっくり返る前に自宅のオンザベッドでひっくり返るとしよう。
Studio Lam
場所:スクムビット・ソイ51
電話:0-2261-6661
時間:18時半~翌2時 火休
FB:studiolambangkok
ぺー=シリパン・ジェンタラクールラート
旅人、37歳。ダコタイ語版4代目編集長(~2015年)。現在はタイの大手出版社にて編集スタッフを務める。ダコ本誌で2009年から2018年2月まで「屋台の細道」(全108回)を連載。