動物園は、どこも同じ
9月30日、バンコクの動物園「ドゥシット動物園(通称カオディン)」が閉園した。都心で開業して80年、当初は8月末閉園予定だったが、別れを惜しみ都民が殺到したため、1カ月延長したのだ。
とはいえ閉業ではない。環境改善を図り、ワチラロンコン国王から譲渡された、お隣パトゥムターニー県ランシットの土地に移転するのだ。
バンコクより空気が綺麗で、敷地も3倍の広さ、約48万㎡となる。設備も、動物ごとの生息環境を考慮した設計がなされるという。飼育されていた179種1088匹の動物たちは、一時的に全国6カ所の動物園に預けられる。
もちろん、ここでは閉園した動物園を紹介したいわけではない。僕が伝えたいのは「動物園はどこも同じ」ということだ。カオディンが閉園してもほかの動物園がある。と、書いたら日本人は反発するだろうか。日本の動物園は独自の工夫を凝らして素晴らしいからね。
最後に動物園に行ったのはいつだったか。動物たちは不自由で可哀想だ、などと悲観するようになったのはいつからだろう。
世間の風潮に乗ってカオディンへ行くと、あの悲観的思考がかなり薄れていることに気付いた。孤独そうな動物を見ると胸が痛んだが、こんなに様々な動物を間近で見られる方法がほかにあるだろうか。この世に動物園というものがなければ、一般人が動物を知る手掛かりは本と記録映像だけになる。

バンコク出身ではなく、カオディンに馴染みのない僕でも、懐かしさがこみ上げた。それが動物園だ
そして、子供の頃の思い出と感動が鮮やかに甦った。兄とツキノワグマに興奮したこと、姉とカバに餌をやったこと、キリンを見たくて父に肩車をせがんだこと、そして、母に百獣の王ライオンと写真を撮ってもらったこと……。
もうあの頃ほどの感動はないけれど、「動物園」には僕たち家族の幸福な思い出がある。バンコク都民が閉園を知って殺到したのは当然だろう。彼らは動物を見るためだけに行ったのではない。彼ら自身の幸福な思い出を偲んで行ったのだ。
どこでもいい、動物園へ行ったら、ご自身の家族との楽しい時間を思い出してみてほしい。そして、思い出の映像が頭に浮かんだら、僕と同じ思いがよぎるだろう。
Dusit Zoo
場所:パトゥムターニー県タンヤブリー郡ランシット、ソイ・クローン6に移転予定
FB:DusitzooThailand
ぺー=シリパン・ジェンタラクールラート
旅人、37歳。ダコタイ語版4代目編集長(~2015年)。現在はタイの大手出版社にて編集スタッフを務める。ダコ本誌で2009年から2018年2月まで「屋台の細道」(全108回)を連載。