仕事からの帰り道、いつもと1本違うソイから
家に帰った。
ラマ9世通りからラムカムヘン・ソイ24へと抜ける道。
高級住宅と、その合間におしゃれな飲食店が同居する通りになっている。
家の近所ではあるけれど、普段はとおらないソイなので、
「初めて来る街を移動してる」感がちょっと新鮮だった。
そんなことをぼんやり考えていると、
どこからともなく、何やら肉の焼ける
香ばしい匂いが漂ってきた。
もわもわ、もわもわ
……
辺りを見回していて、そこを見つけた。
通りの少し先、隣りのソイへと抜ける横道の角っこに、
最近できたばかりといった風のハンバーガー屋さんがあった。
バー・カウンターのような造りのガーデン席もあり、
なかなかいい感じだ。
店内席もアートな感じがサマになっている。
何よりもキッチンがガーデン席のそば、
屋外にあるので、
肉を焼く音や匂いが風に乗って辺りに漂っている。
興味深げに覗き込む、とおりすがりの人たち。
この匂いを少しでも嗅いでしまったら、
その誘惑から逃れるのはなかなかに難しい。
そう、そのときの僕もそうだった。
ジューシーな肉が鉄板の上で踊るのを見ながら、
思わず生唾を飲み込んだ。
アツアツの鉄板に肉汁が落ち、ジュワっと音がして、
湯気が上がって、匂いが広がる。
もう、たまらない。
それほど高級そうな感じもしないカジュアルさなので、
料金もお手頃価格であろうことは伺える。
だいたい200Bくらいだろうか。
けっこうボリュームがあるので、もしかしたら
300Bくらいするかもしれない。
「食べて帰ろうかな」と一瞬、そんな考えが頭をよぎる。
運良くその日は、それくらいの手持ちならポケットの中にあった。
この匂いを嗅いで、この肉を目の当たりにして、
背を向けて立ち去ることなどできようか、いやできない。
食べていくべきか、否か。
僕の心の中で、孤独ながらも
凄絶な戦いが繰り広げられようとしていた。
そして、登場する
天使の輪っかを頭に乗せた白い僕。
悪魔の角を生やした黒い僕。
お互いが譲り合おうとはしない。
黒い僕が、食べていく、と主張し、
白い僕は、さっさと家に帰る、と主張する。
声高に自分の考えを叫ぶだけのふたり。
相手の話を聞いていないので、その議論はちぐはぐしている。
一向に話が進まないし、まとまらない。
次第に白熱していくふたりの感情。
黒い僕が高ぶりに任せて、白い僕に襲い掛かる。
負けじと白い僕も反撃に出る。
髪の毛を引っ張り合い、お互いの顔に爪を立てて、
流血混じりのケンカに発展していく。
いつ果てるともない不毛な戦いが、延々と続く。
……
と、そんな妄想をしていたところで
ふと我に返った。
結局、なんで入って食べないんだっけ?
ポケットをまさぐると、あると思っていたお金はなく、空っぽ。
そういえば、さっきコンビニに寄ったとき、今日の小遣い全部
使い切っちゃったんだった。
それでも未練たらたら、あきらめ悪く、後ろ髪を引かれる思いで、
バイクで家路を急ぐ。ぶ~ん。
今度の休みにでも食べに来よう、っと。
(U)
BURGER BRO!
場所 Soi 49, Rama 9 Rd.
時間 10時~21時半 無休
電話 08-2793-8855
HP www.facebook.com/pages/Burgerbrobangkok/238923949635620?fref=ts
料金 ビーフ・チーズバーガー80B、ポーク・チーズバーガー80B、オニオンリング50B、フライドポテト50B