バスタブとウォッカクランベリー
「ノーセンキュ! うちで入ってきたもん」。
友人へレンの息子、4歳のアレックスをお風呂に誘ったら、あえなく断られてしまった。せっかく泡風呂にしてみたのに。私の部屋に遊びに来たヘレン一家が買い込んできたウォッカを、彼女の夫、J.J.がクランベリージュースで割る。みんなの仕事が終わってからアレックスのぐずり虫が騒ぎだすまでの数時間。照明を落としたシックなホテルの一室で、パッポンの喧噪を見おろしながら少しだけ酔っぱらう。
「来る途中、タニヤのお姉さんたちが揃ってアレックスに話しかけるもんだから、
この子ったら『みんな僕のこと好きなんだね』だって」
「その思い込み、 J.J.も一緒だよね」
「じゃあ将来が楽しみだ」
アレックスにフラれたので、かわりにグラスをバスタブに持ち込む。バスルームを仕切るドアを開け放ち、窓際のヘレンとJ.J.の近況報告に遠くから口をはさむ。夜更かしに興奮さめやらぬアレックスはバスタブにもたれかかって、なぜか泡をぱくぱくと食べている。
「来月は家族でビーチに行くよ」
「あのふたりが離婚するって」
「今度の仕事、一緒にやろうよ」
シャボン玉みたいに次々と話題が膨らんでは消える。だけどウォッカのボトルが3分の1もなくならないうちに、つまづいて泣き出したアレックスに、そろそろ帰宅の時間ね、とお開き。
残った私は、もう一度熱いお湯をためて入る。照明を一段暗くしたら、遠くに建つオフィスビルのワンフロアが別の惑星みたいに発光していた。
Le Meridien Bangkok
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