運命の牛肉麺

クイティアオ・ヌア全部のせ
「運命の相手(ヌア・クー。ヌアには牛肉や体という意味がある)」の存在を信じるだろうか。人間は皆、運命で定められた相手と出会うために生まれる。どんなに遠く離れたところで生を受けても巡り合い、再び巡り合うのが運命の相手だ。タイではこう信じられているが、ぼくにとっては取るに足らない戯言だった。とある店の話を聞くまでは。
店主は40歳の時に牛肉麺(クイティアオ・ヌア)の店を始めた。やがて図面専門の印刷業に鞍替えするが、1997年のアジア通貨危機のあおりを受け廃業。再び牛肉麺屋を始めたという。再開して20年が経過した今では、タリンチャン水上マーケットの人気店になっている。
ここの牛肉麺には牛の様々な部位が使われている。中でも主役はホロホロに煮込んだ肉とスジだ。準主役はモツ。ホルモン、レバー、チレ、ハツなど、それぞれ異なる味わいがあるが、モツ独特の臭みはまったくないのが嬉しい。モツを食べていることすら忘れてしまうんだ。
そしてヒロインはスープ。大量の牛骨と関節から約5時間かけてとったダシはやわらかな甘さを含み、程よいスパイスの香りが引き立っている。そのスープで主役と準主役を一緒に煮込み、調和のとれた味が完成。牛骨ダシが肉の繊維の奥まで染み込み、噛みしめると口いっぱいに旨味が広がる。
ホロホロ肉は最大で5時間も煮込んであるため、噛む必要がないほど軟らかいんだ。
一度は離れたものの、再び牛肉麺と巡り合い、ともに人生を歩み始めた店主。まさに運命の相手、運命の牛肉麺(クイティアオ・ヌア・クー)だと思わないかい? 運命の相手といえばロマンチックな響きだが、この話がロマンチックかどうかは定かではない。
一つだけ断言できるのは、この牛肉麺は運命的なおいしさだということだ。
クイティアオ・タリンチャン・ロットデット

タリンチャン水上マーケットの有名店。店主は中国系タイ人のウィタヤーさんで、御年70に届く現在も元気に采配を振る。息子さん2人が立派に仕事をこなすようになっても、まだ店を任せる気はないようだ。
レシピは同業者の親戚から受け継いだものをもとに、納得ゆくまで試行錯誤して独自のレシピをつくった。親戚が揃って廃業した今も、この店は売り上げを伸ばし続けている。どの部位もおいしいから、ぜひ全部のせ(85B)を食べてみて。

DATA
時間:7時~15時 火休
電話:0-2434-1535









