男と女の学際研究 ~現役学者が微笑みの国を考察!~
5人の現役研究者が「日本男とタイ女」をテーマに、いろいろな角度から考察する連載コラムです。
経営学 林 拓也
ある都内の焼き鳥チェーン店。職場の同僚達とアフター・ファイブでほろ酔い気分。懐もボーナスをもらって暖かい。そんな楽しい一時を過ごしている最中に、愛用のスマホがブルブル震え出す。電話の主は? そう、タイ人妻からです。「イマドコイル! ナニシテル! ウワキシテルカ!」。酔いも一気に覚める、恐怖の定時チェック電話。嗚呼、おかげでうまい焼き鳥も冷めてしまいます。
しかしそんな日本男が食べていた焼き鳥が、もしかしたらタイ女の作ったものかもしれないということを、皆さんはご存じですか?
タイ女の手作業が輸出を支える
末廣(2000)はアジア諸国における労働市場の特徴の一つとして、女性の労働参加率の高さと労働人口にしめる女性比率の高さをあげています。同氏によれば、その要因の多くは労働集約型の輸出産業を中心としたタイの工業化の発展パターンと密接な関係があります。
タイにおける主要な輸出産業のひとつであるアグロインダストリー(ブロイラー、養殖エビなど)は、例えば鶏肉の串刺し作業、エビの皮むきなど「手先の労働」に依存しており、若年女子労働者を大量に動員することで発展してきました。
ここでの仕事は忍耐を要する単純作業の繰り返しですが、女子労働者の多くは男性労働者よりも平均労働時間が長く、さらに平均賃金水準も低かったという調査結果が出ています。タイの工業製品の輸出はタイ女に支えられているとも言えるのです。
従ってタイの経済発展におけるタイ女の寄与度は非常に大きいと考えられ、彼女達の存在が無ければ現在の中進国の地位は得られなかったかも知れません。
タイ女の自律性や強さについて、既にこのコラムの別の回で片山氏と竹本氏が論じましたが、日本で食べる焼き鳥のひとつひとつにも、タイ女の力強さを感じることができるのです。
さあ、目を閉じて目の前にある焼き鳥を味わってみましょう。もしかしたらその一本は、あの時あの場所で出会った、あのタイ女が工場でせっせと串に刺した焼き鳥かも知れません。
【参考文献】末廣昭(2000)『キャッチアップ型工業化論 アジア経済の軌跡と展望』名古屋大学出版会