新年の新境地
カーオ・ムーデーン(焼き豚のせご飯)
三十を超えると時が経つのを早く感じると聞いたが、そのとおりだ。 年々早まっていくようにすら感じる。「死」というゴールに向かって確実に老いていく焦りのようなものか。僕は死を恐れないが、将来に不安はある。だから今のうちに仕事に励み、老後の生活に備える。
すると、仕事をすればするほど日々の輝きがなくなっていった。
カーオ・ムーデーン(焼き豚のせご飯)を食べながらそんなことを考えていた。ここの焼き豚には僕の大好物である脂身の輝きがない……。それもそのはず、これはステーキに使われる上質なロースなのだ。厳選したロースをタイと中国のスパイスに漬け込み、時間をかけてじっくり炭火で炙った、贅沢な焼き豚だ。
この店はムー・クロープにもこだわりがある。赤身多めの豚バラを厳選し、塩や酢に1時間漬け、2時間ほどゆっくり炙ったら皮がカリカリになるように揚げる。うまく炙るには、火力が強く悪臭を出さないヒルギの炭が鍵となる。
最も個性的なのは焼き豚のタレ。うま味が凝縮された豚骨スープをひと手間かけた薬味で調え、そこに一般的にはピーナッツを入れるところだが、この店では粗ずりの炒った白ゴマを大量に投入する。
これは客家料理の特徴だ。焼き豚と追加したムー・クロープの上にたっぷりかけていただきます。程よい甘さとゴマの粒々、そしてジューシーな肉を楽しんでいるうちに完食してしまった。
脂身好きの僕の舌も虜になった、脂身のない焼き豚とムー・クロープ。この年齢になってやっと分かったことがある。肉のうまさを決めるのは脂だけじゃない。人の幸福も同様に、様々な要因で成り立っている。大切な人のために仕事に励むのもその一つ。毎日刺激や輝きがなくてもいいのだ。料理と人生のうま味を一度に味わえて、僕は幸せだなあ。
スニー・カーオ・ムーデーン
プルー市場に店を開いて50年になる有名店。現在の店主スニーさん(59)は客家系タイ人だ。カーオ・ムーデーンの焼き豚は、タイ料理と客家料理のおいしいとこ取りで生まれたオリジナル。おまけに脂肪分控えめの肉を厳選しているから、脂が気になる人には嬉しいね。このボリュームにして一皿30B(大盛35B)とは財布にも嬉しい。ムー・クロープ(カリカリ揚げ豚)を一緒に乗せると、おいしさもアップするので肉好きにお勧めだ。
DATA
時間:6時~20時半 無休
電話:0-2466-3173