40代の入口に立つ男がカメラを抱えて船に乗った。オトコ歩きにオトコ飯、オトコ喫茶。ご近所だが骨太になって戻ってこれそうなワンデーへ。次はあなたがさすらえますように。
旅して書く係:てっつん さすらいB型カメラマン
港湾局を抜けてゆけ!
久しぶりにBTSサパーン・タークシン駅を降りて船上の人になる。チャオプラヤー川を北へ、ノーフラッグの各停船で3つ目のN4 Marine Departmentへ。川沿いにあるゲストハウスは……と上流方向に目を向けてみる。
あった。高くそびえ立ったマンションの横に古びた低い建物が見える。リバービューゲストハウスと書かれたサインも見えた。
船着き場はMarine Department、タイの港湾局だ。立派な官庁施設ではないか! いいのかこんなところ歩いてと思いながら施設内を進む。正門が見えてきた。
名付けてエンジンの築地市場
正門を出ると、そこはディープな下町だった。自動車エンジンのリサイクル工場ばかりだ。オイルの匂いが鼻につく。尻込みしながらソイを進む。自動車やらトラックやらのエンジンや車軸シフトの部位だろうか。解体された後なので想像するしかない。まるでエンジンの築地市場。油まみれの男たちが、カメラを向けると誇らしげに解体作業を見せてくれた。鍛冶屋のようにバチバチと火花をまき散らしている工場もある。ソイは狭い。トゥクトゥクがバンバン走る。一気に汗が吹き出る。
大いなるうねりにシャッターを切れ
なにやら中国寺らしい入り口のサインが左手にある。そこにゲストハウスの小さな看板もあった。とりあえずソイから脱出。昼間なのに、薄暗い寺には人気がない。わずか数十mしか歩いてないのに迷子になった気分。どこだ?? と見回すと、寺の背後から忽然とゲストハウスが現れた。寺の横の迷路のような細い路地の突き当たりにゲストハウスの玄関が見えた。いや〜わかりづらい。レセプショの女性に会釈してエレベーターで8階まで上がる。そこはまるで昭和のレストラン。渋い。バルコニーから外を見て思わず声が出た。凄い。その絶景に見とれた。
チャオプラヤー川が大きくS字に蛇行する中間地点にあるので、上流方向の寺院の景観と下流方向の高級ホテル群の両側を見渡すことができる。ふいに背後から声をかけられて振り向く。目のきれいな美人レストランマネージャーさん。「ここからの夕日は最高ですよ」とノートパソコンの写真を見せてくれた。なるほど、気象と時間がうまくハマれば絶景写真を収められる。夜景もいいだろう。夕日まで時間はたっぷりある。フアラムポーン駅までは歩いて5分の立地だ。散策開始!
時間と空間をねじる市場
タラート・ノイという小さな市場があった。付近は中華風の建物が多い。プーケットタウンやペナン島で見られるコロニアル調の建物もある。しかし、町並みは古いというよりむしろ朽ち果てた古さだ。奇抜なデザインが怪しさを増幅している。路地の奥には何かがうごめいている。ずんずん入って行くと香港のようだ。だんだん時間と空間がねじれてくる感じだ。……大袈裟か?
喫茶とエビが10年前を呼びさます
しばらく歩くとまさに男の喫茶店に遭遇。かなり躊躇したものの店内の雰囲気が香港映画みたいで惹かれた。暇な男どもがお茶を頼んで話し込んでいる。最上級に甘い紅茶を飲みながら、自分も裏中華街に溶け込んできたようだ。不意にメインのヤワラート通りに出る。10年来通い続けている海鮮屋台に遭遇。
「レック&ラット・シーフード」で、ビールとクンパオ(焼きエビ)、カオパット・プー(蟹チャーハン)を喰らう。焼き立てなのでエビのアタマの殻がきれいに取れる。エビ味噌にかぶりつくと味覚の快感ととも10年前のバックパッカーだった自分の記憶がよみがえる。今日は我ながら男臭い旅だったな。夜風を感じながら異国にいる自分を思う。帰りは歩いてフアラムポーン駅へ。ライトアップされた駅舎を見ながら地下鉄に乗る。日常に戻りつつ静かに思う。また来ようと。