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日本人が見た! タイの出家生活と「徳」とは

伊藤允一氏-1

タイ人にとって、お寺へ参る目的は「徳」を積むこと。この徳を積むという目的において、最も大きな行為の1つは「出家」することだ。そんな出家を経験した日本人男性、伊藤允一(いとう・まさかず)さんに、タイでの出家生活、そしてタイ人にとって徳とは何かを聞いた。

― 2002年から2005年の間、タイで出家生活をしていた伊藤さん。ほぼ海外経験がないというなか、なぜタイで出家をされたのでしょうか。また実際のお坊さんとしての生活はどのようなものでしたか?

大学で仏教を勉強したのですが、卒業しても仏教が全然わからなかったんですね。卒業後に自分で仏教の本を読み続けていくなかで、次第にお釈迦様その人に興味を持つようになりました。そして仏教ってもっとシンプルな教えだったに違いないと思ったんですね。そういうなかで、お釈迦様の時代に近い環境の「上座部仏教」に出会いました。ミャンマーなど他の上座部仏教の国もありますが、タイは情勢が安定していたので来ることを決めました。修行生活のなかで有名なお寺は一通りめぐりましたが、山奥のお寺で修行していた期間が一番長かったです。

お寺での生活

タイには、「森のお寺」と「町のお寺」があります。厳密に分けられているわけではないですが、修行がしたい人は森のお寺へ行き、学校のような勉強がしたければ町のお寺に行きます。一度出家すれば行き来は自由ですが、森のお寺は町より厳しく、人も少なく、私語が厳禁。虫やトカゲは出てくるし、ゴザ一枚で寝るワイルドな生活でもあるので、バンコクっ子だと我慢できないかもしれません。

伊藤允一氏-2

お寺ごとに異なりますが、一般的に森のお寺の場合、朝は3時半に起床。瞑想の時間などを経て、托鉢に向かいます。8時にお寺へ戻って食事、そのあとは夕方の掃除の時間まで自由時間です。夜は読経の時間などを経て、21時~22時に就寝します。

食事は一日一回で、信者さんから供養された、一般の方が食べるものと同じものを食べます。基本的にはお坊さんが食べた後に残ったものを一般の方が食べる、という決まりがあるので注意が必要です。バンコクではおかずごとに袋詰めにされているから鉢が汚れないのですが、田舎の方だと全てごちゃ混ぜになることもありました。あとインスタント麺も多いですよ。気軽に托鉢に参加できるので、観光客の方にもインスタント麺はおすすめです。

生活は瞑想を中心に行われますが、自由時間が長いので、自分がどうやって修行をしていくかという目的意識を持っておかないと見失います。戒律に違反しない限りは誰も何も言わないので、昼寝していようが自由です。どこまでも堕落していくこともできるため、自分自身で自分を律するという面で厳しいですね。私は仏教と瞑想を学ぶためにタイへ来たのだという目的意識があったので気持ちを引き締めることができましたが、自分に負けてしまいそうになることは何度もありました。本当に人間って弱いなと痛感させられました。

森のお寺での生活は、テレビもなく、外部の情報は入ってきません。何度かタイの方が気づかってくれて、日本語の新聞を差し入れてくれたことがありました。でも、そうしょっちゅうあることではありません。タイでも日本でも、何が起きているのか全く知らない状態でした。

そんな森のお寺での生活ですが、托鉢以外にもたまに外へ出ることができる機会があります。お寺の僧院長のお付きで町へお供をする時や、信者さんのお宅へ「ニーモン」と呼ばれる寄進、この場合は食事のお布施を受けに行く時などです。これは修行中のほんのささやかな楽しみでした。

徳を積むことで心が晴れる

― 出家をするというのはタイ人にとってはどういう意味を持つのでしょうか?

お寺に行くことも徳を積む行為なのですが、出家というのはより大きな徳が積めるので、タイでは誰もが良いことだと褒めてくます。周りのタイ人にきいたら、親孝行のために徳を積みたいから出家したという人が多かったです。タイ人は徳という概念を本気で語りますし、それが良い行為だという確信を持っていますね。

またタイ人との話を通して、徳を積むとすごく心が晴れるということを知りました。一般の方でもお寺に参拝しているときに明るい表情になるのは、心が晴れる気持ちが根底にあるからだと感じます。私自身ももうその感覚を理解できていて、例えば今でも日本でたまにタイのお坊さんを見かけると売店でジュースを買ってお布施したくなりますし、日本人の托鉢僧も見かけたらお布施せずにはいられないです。いい来世に生まれ変わるために徳を積むというのもあるでしょうが、このような心を晴らしてくれるものという意味もあると思います。タイ人の知り合いに、日本人にはそれはないというと「それは残念だね」といわれました。

「今」を見るのが瞑想

瞑想修行をすること自体も徳を積んでいるという行為と見られます。在家の方でもお寺に行って瞑想するのは徳の高い行為ですね。出家をせずとも数日滞在することはできるので、ぜひ日本人の皆さんにも雰囲気を感じてほしいです。瞑想修行を希望する場合は、有名な瞑想センターだったらほぼ英語が通じるくらい、英語で修行できる場所が多いです。本格的な修行だったらタイ語を勉強してから出家するのをおすすめしますが、なによりどの程度、仏教を勉強したいかが大事です。

お寺は静かな環境なので、自分自身の「今」を観察できます。この「今」を見る力を鍛えるのが瞑想。人間が悩むのはだいたい過去か未来どちらかのことですよね。考えるのは半歩先までにして、今を丁寧に生きるべき。現在は出家生活で得たこのような教えを、日常の感情のコントロールに悩んでいる、例えば漠然とした不安を抱えている人たちや、子育て中にイライラしてしまうお母さんなどへ、瞑想を通じてお伝えする仕事をしています。今の最善を生きると人生が最善になります。去年から始めたこの仕事ですが、これがいま私のなすべき最善のことであるとの確信を持って取り組んでいます。うまくいかなくなったら、その時、いま何が最善なのかをよく考える。最善の選択を繰り返していけば、必ず最善の結果が得られます。タイで学んだ教えは、今も私の中に生きています。

伊藤允一(いとう・まさかず)1976年生まれ、44歳。
大学で仏教を学んだ後、原始の姿に近い仏教を学ぶためにタイで3年間の出家修行を行う。日本へ帰国後は介護職など幾度かの転職ののち、2020年から「おだやか人生改革瞑想」の提唱者として、瞑想会やカウンセリングなどを通して日常の感情のコントロールに悩んでいる人のサポートを行っている。

公式ウェブサイト:
http://kusalacitta.com/

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