いまの学校では、進化論をどう教えているのだろうか。僕の時代はダーウィン進化論全盛期だった。自然淘汰というやつである。種は環境に合わなければ消えていくわけだ。
ショウジョウバエやエンドウ豆を使った実験が教科書に載っていた。ダーウィンやメンデルといった名前が躍っていた。
ダーウィン進化論はわかりやすい。小学生でも理解できたような気がする。
しかしその後、ダーウィン進化論では説明できないことがいくつも出てくる。キリンの首は有名な話だ。これまでみつかったキリンの化石のなかに、首の短いキリンと長いキリンはあるが、中間の化石がひとつもない。ダーウィン進化論に従えば、高い木の葉を食べるために、キリンの首は少しずつ長くなってきたはずなのだが。
ダーウィン進化論に対抗するものとしてウイルス進化論がある。僕らが日々、振りまわされている新型コロナウイルスのウイルスである。理論としては認められているわけではないが。
ウイルスは自分では増えることができない。人間の細胞に入り、細胞のエネルギーや代謝系を利用して増殖していく。ウイルスのDNA情報は、RNAに転写され、複写、つまり増殖していく。
そのプロセスは、卵子に精子が入り込んでいく方法に似ている。これはウイルスが高等動物から獲得したものなのか、あるいはウイルスが私たちに持ち込んだものなのか……。
分子生物学の分野なのだが、RNA転写にエラーがおきると、違う遺伝子情報が伝わっていく。遺伝はDNAの世界で行われるので、それがRNAとどうかかわっているかがわからないが、少なくともウイルスは、人間の進化にかかわっているところまではわかってきている。
コロナ禍で停滞を余儀なくされている。感染者がほぼいなくなった国も、外国人の入国には慎重だ。感染者が再び増えることがわかっているからだ。タイもそんな国のひとつだ。
3月に東京からバンコクに向かうチケットをもっていた。飛行機が欠航になり、その都度、予約を入れなおしている。これまで5回、予約を変更した。
航空会社のスタッフもわかっている。来月の便もたぶん欠航……。あまり意味がないと思いながらも、淡々と仕事をこなす。利用者も航空会社のスタッフも、ある種の徒労感に苛まれている。
ウイルス感染が進化のひとつと仮定すれば少しは楽になる。タイに行くことができない苛立ちは止まらないが。
しもかわ・ゆうじ
アジアや沖縄を中心に著書多数。新刊は『12万円で世界を歩くリターンズ タイ・北極圏・長江・サハリン編』(朝日文庫)、『「生きづらい日本人」を捨てる』(光文社知恵の森文庫)。