全日空の国際線の座席指定が有料になった。安い運賃のエコノミークラスの場合だが。予約時やチェックインカウンターで支払うことになる。これはなにも全日空に限ったことではない。タイ国際航空は安い運賃の航空券は座席指定ができなくなった。キャセイパシフィック航空やシンガポール航空は有料。細かい話は面倒なのでそれぞれ調べてほしい。
全日空のバンコク路線の場合、日本で支払うと2000円、タイで支払うと600Bである。
バンコクの旅行会社のスタッフからこんな話を聞いた。
「バンコクの空港で有料といわれた日本人は600Bをすぐ払う。でも日本の空港で2000円といわれると、エーッというそうです」
600Bと2000円はそんなに違うのだろうか。現在のレートをあてはめてみると、600Bは約2123円。タイで払ったほうが高くつく。
それなのに……。
これがタイマジック?
タイとのかかわりは40年以上になる。タイは物価が安いというイメージを刷り込まれた世代である。バンコクに暮らし、タイをベースにアジアをまわるようになったのも、その背後には
タイの物価の安さが潜んでいた。
本にまとめた「外こもり」の日本人は、その物価格差のなかで生きていた。日本で3カ月ほど集中して働き、貯めた資金でタイに1年、2年と暮らす若者たちである。
30年前の記録がある。当時タイバーツは約5.1円だった。しかしクイッティオは12Bほど。約60円。現在のクイッティオを50Bとすると約180円。3倍である。
クイッティオの価格を比べても、日本人のタイ物価観がわかるわけではない。物価というものは、そんな現実の価格を超えたイメージに支配されていることが多い。そのイメージをあてはめると、600Bは2000円より安いということか。
日本は欧米のように物価の高い国を維持することができなかった。それでも600Bは2000円より安いと思えてしまう。
「きっと、そう思いたいんじゃないかな」
バンコク在住の日本人はそういった。そんな意識が高じて、チェックインカウンターで見栄を張る日本人? いや、僕には「幸せの旅行づくり」のようにも映る。消費税が2%安くなることに心が動く生活から脱出できる旅や生活がタイにはある……と。
しもかわ・ゆうじ
アジアや沖縄を中心に著書多数。新刊は『12万円で世界を歩くリターンズ』(朝日文庫)、『「生きづらい日本人」を捨てる』(光文社知恵の森文庫)、『10万円でシルクロード10日間』(KADOKAWA)。月2回、バンコクで続けている「書き方講座」の申し込みは lesson@arukubkk.com。