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はじめに
「食べログ」のランチ評価は費用対効果ではなく、「1000円対効果」だと思っている。どんなにクオリティが高くても値段が1000円を超えると評価が下がる。
タイのストリートフードも同じような感じだ。どれだけおいしくても100Bを超えるとダメみたいな。こぎれいな店やチェーン店も減点対象だ。まあ50Bで大満足ならそれでいい。
しかし私は普通においしい物を食べたら、これをもっといいお店で食べたらどうなのか知りたい。和食でも回転寿司がこれだけおいしいなら、回らないお寿司屋さんはどのくらいおいしいのかと思わないだろうか? 私にとってはタイ料理もまた然りだ。
タイでストリートフードと呼ばれる料理は、必ずしも提供される場所で分類されるわけではない。たとえば、ガパオ炒めやカオマンガイ、カオソーイなど、元々ストリートフードとして広く知られているものは高級レストランで提供されていてもストリートフードだ。
つまり値段やお店によって定義づけされているわけではないのだ。日本ではそれなりのお店でそれなりのタイ料理しか食べることができないが、バンコクでは屋台や食堂はもちろんホテルやミシュラン星付きレストランでもストリートフードを食べられる。
私はいつも手軽に食べているものだからこそ、一流の料理人が厳選した食材を使って最高のテクニックで作ったらどうなるのか気になる。
高級レストランのストリートフードなどおいしくないと、頑なに拒絶する人もいるだろう。特に化学調味料の味に慣れてしまった人は、何を食べても物足りなく感じると思う。好みの問題で、どちらが良いというわけではない。
最上級といってもガパオ炒めやカオマンガイに400B出すのはバカらしいと思う人はそれでいい。たとえその人が中の下くらいの居酒屋では惜しげなく1000B出していたとしても。
今回選んだのは、屋台で10回食べるなら、ここで1回食べようと思うお店ばかり。タイ料理は非常に薫り高く、塩味・酸味・甘みが混ざり合う複雑で繊細な料理。
さらに既製品を使用せず一から手作りしたタイ料理は、雑味がなく、驚くほどキレのある味がする。だからこそタイ料理があまり得意でない人にこそ食べてもらいたい。
食事は空腹を満たすためだけにあるのではない。お店の雰囲気やサービスを含めた、心身ともに満たされる総体的なエクスペリエンスなのだ。
排気ガスや街の臭いに邪魔されずに純粋に新鮮なハーブの香りと繊細な風味を味わえば、タイ料理に対する認識も変わるのではないだろうか。
(特集執筆ライター・石田牧子)
プロフィール:(いしだ・まきこ)コンサルタント、翻訳、ライターとして活躍、主にグルメ・ホテル・旅行系の記事を執筆。タイの某有名料理学校にてタイ料理の腕を磨き終えたばかり。アメリカ留学や香港での勤務の経験、また、ホテル業界の裏側にも精通し、切れ味鋭いトークはダコ内にもファン多し。
サラ・リム・ナームのガパオ炒め
一世紀にわたり愛されるソウルフード
レストランの本当の常連客は豪華な食事と高級ワインを頼む人たちではなく、日常的に普通の食事をしに来る人たちである。
彼らはふらっと訪れては焼魚と白いご飯を注文したり、何十年間も毎週ビーフシチューを食べ続けたりしている。
マンダリン・オリエンタルの「サラ・リム・ナーム」 もそういう常連客が集まるお店。
一般的にはブッフェが有名だが、実はアラカルト料理も充実しており、タイ人のソウルフードともいえるパット・ガプラオ(ガパオ炒め)も提供している。
厳選された食材は驚くほど新鮮で美しく、唐辛子も辛さにはプリックキーヌー、食感と色合いにはピーマンに近いプリックユアックを使用と、オリエンタルならではのきめ細かさ。
高火力の中華レンジで最初に丁寧にニンニクとチリを炒め、具材を入れてからは一気に仕上げたパット・ガプラオは薫り高く、うま味を閉じ込めたひき肉が驚くほどジューシー。
せっかくオリエンタルに来たのだから豪華な一皿が食べたいという人には、手長海老のガパオ炒めをお薦めしたい。たっぷりの海老味噌入りのソースが絡んだプリプリの海老はどんな高級料理にも負けない逸品だ。
パット・ガプラオは常連客に人気だが、実はメニューには載っていない裏メニュー。でもご心配なく。常連客でなくとも、いつでもだれでも注文できる。
船でチャオプラヤー川を渡り、美しい空間で卓越したサービスを受けながらシルバーのカトラリーでパット・ガプラオをいたただく。これこそ本当のラクジュアリーではないだろうか。
Sala Rim Nam
営業時間 ランチ11時半~14時半、ディナー19時~23時 無休
電話 0-2659-9000
HP www.mandarinoriental.com/bangkok
料理 手長海老のガパオ炒め890B、 豚ミンチのガパオ炒め390B
場所 マンダリン・オリエンタル・バンコク
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デリ・バイ・コンラッドのカオマンガイ
いまや国際的ストリートフード
「カオマンガイ」「海南鶏飯」「シンガポール風チキンライス」。
ご存知のように場所によって呼び方は違えども、みんな同じ料理。もともとは東南アジア各地に移住した中国海南島出身者が広めたものだが、実は海南島には海南鶏飯はないらしい。
現在、カオマンガイはアジアへの旅行者やアジアから世界各地への移民により、世界中に広まっている。どこもだいたい調理法は同じだが、つけだれが少し違う。
香港は生姜の入ったオイルだれや オイスターソース、タイはタオジアオ(豆味噌)を入れるというように。そのため世界中からのゲストを迎えるコンラッドホテルの「デリ」では、だれの好みにも合うように4種類のつけだれを提供。
メニューも外国人客にわかりやすいようカオマンガイではなく、「Hainanese Chicken Rice」と表記している。
チキンはオーガニックのものをチキンスープで茹で、それぞれの食感と風味を味わえるようにムネ肉とモモ肉を分けて盛り付け。
大皿で出てくるので驚かれるかもしれないが、やわらかくジューシーな鶏肉は余分な脂身がなく、女性でも軽く完食できる。
お米もチェンライ産の上質なジャスミンライスを使い、スープでふっくら炊き上げる。鶏やお米自体のうま味と風味を十分に堪能できる贅沢な一品なのだ。
「デリ」はホテルのメニューを気楽に味わえるお店として、近隣で働く外国人ビジネスマンにも人気。ホテルの国際的な雰囲気を味わいつつ、ひとりでも気軽に利用できる便利な存在だ。
Deli by Conrad
営業時間 8時~20時、土日:9時~20時 無休
電話 0-2690-9999
HP www.relishbangkok.com/deli
料理 海南チキンライス330B
場所 コンラッド・バンコク
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ザ・ローカルのカオソーイ
進化し続けるファミリーレシピ
以前、カオソーイが苦手だったのだが、ここのお店のカオソーイを食べて、初めておいしいと思った。ただ苦手意識はなくなったが、大しておいしいと思うこともなかった。しかしまたここでカオソーイを食べてやっぱりおいしいと思った。
どこが違うのか疑問だったのだが、オーナーのタナポーン氏の「うちのカオソーイは他店より味がしっかりついています」という説明で謎が解けた。
私はカオソーイのボンヤリとした味が苦手だったのだ。というわけでカオソーイの味がイマイチ好きになれない人も、機会があればここのカオソーイを試してみてほしい。
タナポーン氏の両親はタイ南部トラン出身で、バンコク移住後、母親は南部料理のゲーン・タイ・プラー(魚の腎臓スープ)を出すお店を始めた。
発酵した魚の内蔵を使うこのカレーは臭いが強く好き嫌いが分かれるのだが、彼の母親は夫の実家のレシピをベースに自分流のレシピを開発し人気店になった。
この体験がタナポーン氏が料理を考える上でのベースとなっている。「私にとって家族の味が本物の味。他店や流行は気にしません」とブレない。
「ザ・ローカル」では地産地消の食材を使った伝統の料理に加え、馴染みのレシピに自分の好きな食材を組み合わせた料理も提供。
たとえば、パネーン(レッドカレー)には子供の頃から大好物のスペアリブ、マッサマンカレーには「日本で食べた味が忘れられなかった」牛タンが入っている。
タイ人にとってストリートフードは家族で食べるご飯の味でもある。ミシュランの星を獲得してもそのベースは変わらない。
The Local
営業時間 11時半~14時半、17時半~23時 無休
電話 0-2664-0664
HP www.thelocalthaicuisine.com
料理 カオソーイ・ガイ250B、牛タンのマッサマン450B、豚スペアリブのレッドカレー380B
場所 スクムビット・ソイ23
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グリーンハウスのジョーク
タイ華僑に愛される中華系ストリートフード
炎上覚悟で言うと、個人的に香港でおいしいと思うものはあまりない。
香港で4年間暮らし、屋台から一流レストランまでいろいろ行ったが、「また食べに香港に行きたい」というものは思い当たらない。
それでもお粥だけは別と思っていたら、ランドマークホテルのコーヒーショップに香港式のお粥(タイ語で「ジョーク」)を発見。
タイ華僑から愛される老舗ホテルだけあって、メニューは焼物や土鍋ご飯(煲仔飯)など、まるで香港のストリードフード総集編のようなラインナップ。
聞けばシェフは香港出身なのだそうだ。鮭の骨でとったスープで、4時間炊いたお粥は軽くなめらかな食感ながら、うま味がしっかりついている。
中華系お粥には付き物の揚げパン(パトンコー)は外はカリッと中モチモチの食感。毎日6回に分けて揚げ、タイらしく練乳もついてくるので、半分お粥に入れ、半分デザートにするのもいい。
創業32年になるこの老舗ホテルのコーヒーショップが一番忙しいのは早朝。タイ人の常連客からお粥のデリバリー注文が殺到し、料理の仕上がりを待つドライバーで行列ができる。
お店自体は24時間営業。洋食やタイ料理のメニューも充実しており、子供からお年寄りまで、一日の始まりにも締めにも使える便利なお店だ。
Greenhouse
営業時間 24時間 無休
電話 0-2254-0404
HP www.landmarkbangkok.com
料理 具材全部乗せ香港粥500B、塩漬け豚乗せ香港粥220B
場所 ランドマーク・バンコク
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続く3店は「この一品」というよりも、新たなストリートフードの可能性を探っているお店。なので、全品堪能するべし!
サムデイ・エブリディのぶっかけご飯おかず<閉店>
ストリートフード文化の復興を目指す次世代食堂
「かつてストリートフードは家族で食事に行く場所であり、そこに集まる人たちと交流する場所でした。今は単なるファストフード的な存在になっているのが少し残念です」と語る料理長のプリン・ポンスック氏。
「サムデイ・エブリディ」は ゆっくり会話をしながら食事を楽しむという、本来のストリートフード文化を取り戻す場となればいいと思っているそうだ。
しかしここで提供される料理はただのストリートフードではない。なんといってもタイ料理の名店「nahm(ナーム)」の元総料理長デビッド・トンプソン氏と元料理長のポンスック氏が手掛けているのだ。
「ファインダイニングでもここでも、食材選びや料理に対する取り組み方は何も変わらない」とポンスック氏は語る。
レギュラーメニューのカレーや炒め物、サイドディッシュやデザートに加え、数品のスペシャルメニューを提供する。
名店の味そのままながら、メインが100B、サイドやデザートは50~60Bというお手頃かつ明解な均一価格。だからといって一切手抜きなし。カレーペーストは毎日手作り。料理は作り置きせずに少量ずつ用意し、減り具合を見つつ作り足す。
メニューも普通の食堂では食べられない凝ったものが中心で、食材やハーブが織りなす複雑な味や香りのレイヤーを楽しんでもらいたいという気持ちで選んでいるのだそうだ。
セルフサービス方式で少人数でも利用しやすい店だが、ここはぜひグループで行って、ゆっくり会話をしながら食事を楽しんでもらいたい。それが本来のストリートフードの楽しみ方だから。
Someday Everyday
営業時間 11時~20時 無休
電話 06-1435-6658
Facebook somedayeverydayrestaurant
料理 ぶっかけご飯おかず1品90B、2品120B、おかず別盛り1品100B、副菜60B
場所 ジャルンクルン・ソイ30<閉店>
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ウー(Err)の酔っ払いのためのメニュー
サスティナビリティとトレンドを両立した未来形
オーガニックな食材を使用し、化学調味料や既製品を使わず、すべて一から手作りした料理とオリジナルカクテルを味わえるストリートフードレストラン。
なんだか夢のようなコンセプトだが、食品廃棄や環境問題に対する意識も高いミシュランスターレストラン「Bo.lan(ボーラーン)」のシェフがオーナーと聞けばそれも頷ける。
Bo.lanで取引のある生産者に加え、シェフ自ら出向いて選んだ小さいオーガニック農家の食材を使用し、できる限り食品廃棄が少ない調理法を選んでいる。
そんな社会的貢献度の高いお店でありながらも、タイ全土からお酒に合う料理選び、自ら「酔っ払いのためのメニュー」と呼ぶ遊び心も忘れない。
たとえば、チキン・ムービーという料理は、「ナン・ガイ・トート」という鶏皮の揚げ物なのだが、皮のタイ語「ナン」には「映画」という意味もあるので、「チキン・ムービー」と名付けたのだそう。
秘密の製法で鶏の形に仕上げられて おり、なんだか名前のとおり動き出しそうではないか。自家製シーラチャーソースに付けて食べればドリンクも進む。
また外はカリッと黄身は絶妙な半熟に仕上げた目玉焼きと農家直送の野菜やハーブを混ぜ合わせたサラダや、ペーストから手作りしているグリーンカレーなど、ご飯にも合う料理も揃っている。
タイ料理はスパイシーで一度に数種類食べるのでお酒に合わせにくいと言われるが、ここではタイ産のラムをベースにした、スパイシーな料理に合うカクテルを用意。飲兵衛のためのタイ料理屋ともいえる。
トップシェフが社会貢献まで考えて、本気で作った 理想的なストリートフード。ぜひ「ウー」で試していただきたい。
Err
営業時間 11時~15時半、17時~21時 月休
電話 0-2622-2292
Facebook ERRBANGKOK
料理 チキン・ムービー195B、オーガニック卵の目玉焼きの香草和え145B、地鶏のグリーンカレー395B、カクテル:The Err 250B
場所 マハラート通り
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イータイの全部
ストリートフード博物館的フードコート
タイのショッピングモールのフードコートはどこも清潔で安い。メニューもわかりやすく、外国人にもやさしい。
中でもセントラル・エンバシーの「イータイ」は、全店タイ料理の名店という、タイでも珍しいフードコートだ。
その名も「ストリートフードセクション」には、麺類からぶっかけご飯、スイーツのお店が街中の屋台のような設えで並んでいる。
たとえば「ナーイ・ウアン」はミシュランガイドにも掲載されているイェンタフォーの名店。毎日、本店で作り各店舗に運んでいるルークチンなどの具は、一つひとつが新鮮で弾けるような食感が魅力。スパイシー度合いを選べるスープも酸味のバランスが抜群で初めての人でも食べやすい。
「クイティアオ・トムヤム・トゥックペット」のクイティアオも具がたっぷりで、絶妙な茹で具合の玉子をトッピングすれば夕食として食べても満足のボリュームだ。値段は 80Bからと路面店のクイティアオ屋より少々高いが、盛りは1.5倍くらいある。
豚の串焼き(ムー・ピン)やイサーンソーセージなどのサイドディッシュも充実。デザートにはココナッツアイスクリームをぜひお試しいただきたい。濃厚でクリーミーな風味はこれだけ食べにきてもいいと思うくらいだ。
人気屋台の麺一杯からカニなどの高級食材を使ったタイ料理まで一度に楽しめるのも「イータイ」ならでは。メニューを見て回るだけで、タイ料理全般を体験したような気持ちになれる博物館的存在なのだ。
Eathai
営業時間 10時~22時 無休
HP www.centralembassy.com/ store/eathai
料理 クイティアオ(茹で玉子付き)115B、イェンタフォー90B、イサーンソーセージ(3本セット)65B、ムー・ピン(1本)20B、ココナッツアイス85B
場所 セントラル・エンバシー内
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