旅行作家・下川裕治が見るタイの「今」 バンコク急行

旅行作家・下川裕治が見るタイの「今」【バンコク急行】 第5回 グーグルおじさんに訊く

タイもネット社会である。BTSやMRTに乗ると、半分ぐらいの人がスマホをいじっている。食事に行くことになると、すぐにネットで検索する。

ネット文化がもたらすもののひとつは、世界の平準化だといわれている。僕は日本人だから、ネットが普及させるタイの日本化が気になる。

地方都市に行くとそのあたりは実感する。いまタイの地方都市では、格安チェーンホテルが次々に建っている。その部屋に入ると、軽い錯覚に陥る。

日本の東横インやスーパーホテルにそっくりなのだ。おそらくネットの画像や動画からイメージを練った気がする。朝食付きといっても、つくり置きされた目玉焼きとパン、そして自販機のボタンを押すと出てくるコーヒー。タイらしさはどこにもないシンプルさだ。バンコクのホテルは外国人観光客を意識した部屋をつくるが、地方のビジネスホテルはタイ人がメイン。彼らの感性に合わせると、日本の格安ビジネスホテルに近づいていってしまう。

日本に向かうタイ人のビザが免除された翌年。あるサイトから、日本の習慣について書いてくれないか……という依頼がきた。

「日本の路上にはごみ箱がない」という話を書いた。タイ語に翻訳され、アップされた後、運営者からこんなメールが届いた。

「アップした翌日までにシェアが5万です。ありがとうございました」

シェア──。東南アジアはシェア文化圏だと思っている。フィリピンでこんな話を聞いた。自宅にいた奥さんが、たまたま昼食をひとりで食べることになった。それは寂しいから、家の前を歩く人に、「一緒にお昼を食べませんか」と声をかけていたのだという。「なんでもシェアするから資本が蓄積されないです」。話は味気ない経済話に進むのだが。

バンコクのオフィス街。食堂のテーブルを埋めているのは、会社の同僚グループばかりだ。そこでひとりでカオ・カームーなどを食べているタイ人を見ると、干されているんじゃないかと思えてしまう。

皆でシェアする発想は、ネットの世界に引き継がれたのだろうか。世界からの情報、とくに日本の話はものすごい勢いで拡散していく。

日本語の「ググる」をタイでは、「ターム・アー・グー」という。「グーグルおじさんに訊く」となる。そういえば、「ググる」が定着する前、「グーグル先生に訊く」という表現が日本にもあった。その感性をシェアしたということだろうか。


しもかわ・ゆうじ
旅行作家。1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。最新刊は「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(KADAKAWA)。月2回、バンコクで文章の書き方講座を続けている。現在、クラウドファンディングサイト「A‐port」にて、バングラディシュの小学校校舎修繕のプロジェクトも立ち上げている。

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