我が家を楽園にする方法
ビール好きの僕にとって日本は楽園だ。大手5社が商品開発に熱心なだけでなく、数多くの小規模醸造所も趣向を凝らしたユニークな商品を生み出している。地方へ行ったときは、その土地の地ビールを味わう。心ゆくまで全国の醸造所めぐりをするのが僕の夢だ。
一方タイはというと、長年業界の二大巨頭が現状に甘んじ、新商品開発という冒険はしない。輸入ビールも、ずっと同じ顔触れだ。なぜほかの企業が参入しないかというと、タイでは法律上、ビール製造の許可には年間最低製造量100キロリットルが条件だから、なかなかハードルが高いのだ。ところがこの4、5年、新たな流れが起きている。クラフトビール・ブームだ。小規模のクラフトビールの店が増え始め、イベントも盛況だ。
チャオプラヤー川の中州・クレット島に、クラフトビール醸造・販売店「チット・ビア」がオープンしたのは2012年。オーナーのウィチット・ サーイグラオ(チット)さんはタイ・クラフトビール界の功労者だ。長年クラフトビールの研究や販売だけでなく、少量生産の合法化に向けた活動をしたり、醸造家育成のスクールを開いたりもしている。だから店はクラフトビールを好きな人が集い、語り合う場所にもなっているんだ。
販売しているビールは「IPA」、「Amber」、そして「Kolsch」をメインに、週替わりで季節の素材を使った銘柄10種類も登場する。ざっと見ただけでもライチやマンゴー、ココナッツやレモングラスなどがあるよ。
僕がこの店に惹かれる理由は、ビールはもとより、このアットホームな雰囲気だ。道端の食堂みたいな簡単なテーブルと椅子が良い味を出している。店の横にある醸造スペースも素敵だ。座ってビールを飲みながら家庭用醸造機を操る姿を見ていると、僕自身が家でビールを自作する姿が頭をよぎる。
かつては日本全国の地ビールを飲み歩こうと目論んでいたが、今回気が変わった。楽園を求めて遠出する必要はない。自宅で妻と自家製ビールを楽しみ、ほろ酔いで眠りにつく。楽園は我が家にも作れるのだ。
チットビア・クレット島
Chit Beer เกาะเกร็ด
場所:ノンタブリー県クレット島バーン・スアンパーム
時間:10時~22時 土日のみ営業
料金:クラフトビール1杯120B~
ぺー=シリパン・ジェンタラクールラート
旅人、37歳。ダコタイ語版4代目編集長(~2015年)。現在はタイの大手出版社にて編集スタッフを務める。ダコ本誌で2009年から2018年2月まで「屋台の細道」(全108回)を連載。