男と女の学際研究 ~現役学者が微笑みの国を考察!~
5人の現役研究者が「日本男とタイ女」をテーマに、いろいろな角度から考察する連載コラムです。
今回の著者:経営学 林拓也
前回は異文化経営の観点からBNK48の下地は韓国にあったと述べましたが、今回は別の角度からBNK48を分析してみようと思います。最近上武大学の田中秀臣が韓国のアイドルは「かっこいい完成型」であり、日本のアイドルは「かわいい未完成型」であると大変興味深い指摘をしています。韓国ではSMエンタテイメントらにより確立されたアイドル育成システムにより、「工場」で生産された完璧な完成品アイドルを市場へ投入します。例えば、SMエンターテイメントのイ・スマンが構想し実現させた”Culture Technology”の事業があげられます。それは素人を「商品」として磨き上げ付加価値をつける技術やノウハウを蓄積し体系化することで、「人気商品」の創造を場当たり的でなく、ある程度制御可能なものとする事業です。しかし田中によれば、日本ではアイドルを未完成のまま市場へ投入し、ファンがそれらの市場における成長物語を見守る文化があると論じています。つまり、デビュー後に市場の中でアイドルが磨き上げられ、彼女たちの努力により付加価値のつく過程を見守ることが、ファンにとって消費の対象となっているのです。そのファンにとっての総決算が毎年開催される「総選挙」であり、ある意味、育成型シミュレーションゲームに近いものなのかもしれません。従って、この文化を踏襲したBNK48には未完成で身近なかわいさがあり、田中が述べる通りタイにとっては新しいコンセプトなのでしょう。
次にこの点について、少し別の角度から考えてみましょう。田中(2010)は、AKB48の総選挙において順位と年齢に相関のあることを発見し、在籍年数が高ければ高いほど総選挙で上位となる可能性が高く、日本型雇用の形態に近いことを述べています。つまり日本企業が未経験の新卒社員を雇用し、その後企業内で教育し、その社員は在職年数とともに企業内熟練が進み賃金も上昇するという日本型雇用の特徴を、AKB48も備えていると指摘しています。AKB48メンバーはオーディションを受けて採用されますが、その時彼女達は素人同然で選挙での順位も低位です。しかしグループ内で活動を続けるうちに自然と訓練され、歌、踊り、トーク、演出などのスキルが上がります。一方ファンは、目当てのメンバーが素人同然の姿からスキルを身につけ成長する様を応援し見守り、総選挙で上位をつかめば大きな達成感を味わいます。近年日本型雇用のシステムは崩れつつありますが、アイドル業界ではむしろその様な時期に同システムを可能にするような土壌が生成されていった点に、田中(2010)は注目しています。
職場内でのOJT(On the Job Training)を重視する日本的な長期雇用を前提としたアイドルのあり方は、タイ男アイドルマニアたちにとっては新鮮だったのでしょう。職場によっては引き抜き、離職が頻出し長期雇用を前提とした技能形成が難しいタイにおいて、日本型雇用システムに基づくアイドルが登場し、それを支持するタイ男が出現し始めた点が、実はBNK48の盛り上がりのかげにあるタイ社会における変化の一つなのだと考えられないでしょうか。しかしもちろん気分屋のタイ女とタイ男のことですから、このシステムがタイで本当に根付くかどうかは未知数なところがあります。そしてさらに、IT及びデジタル化社会の進展により「こつこつとスキルを身につけていく」という従来型の積み重ね型革新の重要性が薄まりつつある日本の状況(例えば家電産業や自動車産業)を考慮すると、AKB48が実践している仕掛けは、今後日本男にとってますます懐かしさを感じさせるものとなるのではないでしょうか。
引用:
田中秀臣(2010)『AKB48の経済学』朝日新聞出版
日本経済新聞2018年7月11日付
ダコウェブで連載してきました当コラム「男と女の学際研究」は今回をもって最終回となります。長きにわたるご愛読・応援をありがとうございました!









