前川健一の象がバンコクを歩いていたころ

木の時代の終わり vol.003

行商人も多かった。水道がない家があったのか、バケツで水を運んでいる人も見た。

バンコク伊勢丹が開業したのが1992年、その数年前のご近所の風景がこれだ。
センセープ運河の両岸にはまだ木造の家もあり、このような木の橋もあった。
1980年代末から、ラチャダムリ通りがラチャプラロップ通りと名を変えるあたりの改造工事(再開発という言葉は好きではない)が徐々に始まっていて、「今撮影しておかないと、この世界はすぐに消える」という思いでシャッターを切った。
家からラジオやテレビの音声が流れていた。流行りの歌が聞こえた。カメラを構えていると、スピーカーから声が聞こえた。
携帯電話はもちろん、この地域には固定電話も少なく、呼び出し電話というのがあった。その電話にだれかが電話すると、スピーカーで呼び出すのだ。
人の名のあと、「日本から電話です」という声が聞こえた。老人が「ジップン、ジップン」(日本、日本)とぶつぶつ言いながら運河沿いを歩いていた。


前川健一の1枚の写真で振り返る ー 象がバンコクを歩いていたころ
古いポジフィルムから蘇る記憶。今はああだけど、昔はこうだった。タイの新旧を写真とともに振り返るコラム。
まえかわ・けんいち 2003年から2018年までダコ本誌にて『前川通信』を連載。特集からコラム、広告までをも辛口の批評をくれているダコ名誉顧問ライター。『タイ様式(スタイル)』(講談社文庫)など著書多数。また、旅行人HP(www.ryokojin.co.jp)にエッセイ「アジア雑語林」を連載中。

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