書き手 矢野かずき(パントマイミスト)×
トス(イベント企画会社社長)
あのときの彼を忘れない
20年前から毎年続く「パントマイム・イン・バンコク」という長寿イベントがある。その土俵を作ったのが彼だ。
日本から届いた海のものとも山のものとも知れない舞台イベントの案、私が手渡したたった一枚の手書きのファックスにその場で「やろう」と返事を出してくれたあのときの彼のことをだれも忘れたりしない。
試行錯誤を続け、赤字をかぶり、ある時はイベントを乗っ取られたりもした。けれど彼は日本の役者や制作陣とコンタクトを取り続けた。彼のフットワークはローリングストーンだ。
九州から、東京から、長野の山奥から、時にヨーロッパへ。パントマイムや大道芸の有名イベントを次々に訪れ、やり方を学び、新しい役者を見つけ、そしてルンピニー公園を借り切る大道芸国際イベントを立ち上げた。
ただひとつの弱点は彼自身が芸人の資質を持ち合わせていなかったこと。とにかく目立たない。
イベントの警備員に呼び止められて「俺、主催者、トサテープだよ」と言っても信じてもらえなかった。打ち上げでも彼の挨拶は、赤面しながらグラスを掲げて「乾杯……」で終わってしまう。
日本人ってこういうキャラ、好きだよね。
(提供:Canon)
タイ在住の日本人が縁あってこの地で知り得たタイ人の友人知人仕事仲間を自慢するコラムです。
(ダコタイ語版ウェブに翻訳されて転載されます)