「空腹はスパイス」という言葉がありますが、「空間」と「背景」、そして「移動」も目の前の料理の魅力を引き出すスパイスになると確信した今回の取材。時空を超えたような、もしくは時が止まったかのような(?)美味しい時間の始まりです。
悠久の大河のほとり。築100年のパラディオ邸宅へ
交通機関やインターネットが発達し、便利なサービスが日常に溢れている現代。あえて船でしか辿り着けない場所にお店を構え、ミシュラン・タイ版のおすすめ店に名を連ねるタイ料理レストランがあると聞いて向かったのが「Praya Dining(プラヤ・ダイニング)」です。レストランの船着場に到着し、門をくぐって目に飛び込んできたのは、クリーム色が印象的な邸宅。このお店を語る上で、建物の存在は欠かせません。
遡ること100年前。当時の国王(ラマ5世)はヨーロッパの文化を好まれ、バンコクには複数のイタリア人芸術家が訪問。彼らにより設計・デザインされたパラディオ様式の建物が、ラタナコーシン地区を中心に今でも残っています。そのスタイルに影響を受けたのがタイの貴族の一人、プラヤ氏であり、今の敷地に奥さんと10人の子どもたちが暮らすことができる邸宅を造ったのです。
その後、一家がこの家を離れ、学校として利用された後は空き家として退化。その姿を対岸から眺めていたタイ人男性・ウィチャイ氏は、徐々に朽ち果てつつありながら、格式高さを失わなかった建物の素晴らしさにひと目惚れ。この歴史ある空間を活かしたタイ料理レストランの開業を決意し、2009年、かつての造りに限りなく近い姿を取り戻した建物は「プラヤ・ダイニング」として新たな時を刻み始めました。残念ながらオープン1年前にウィチャイ氏は亡くなられてしまいましたが、「建物とタイの歴史」を一緒に伝えたいという想いは、タイ料理を通して訪れた人々に伝わっていることでしょう。
700年の歴史をタイ料理で体現。
時代を超えた饗宴のひととき
「プラヤ・ダイニング」の一番の特徴は、700年以上前に食べられていたスコータイ王朝をはじめ、アユタヤ王朝、そして現在まで続くラタナコーシン王朝の各世代と、それぞれの時代を代表する料理を体感することができること。他では決して出逢うことができない料理も、メニューに名前を連ねています。
「例えばスコータイ時代は今よりも水が美しく、海や山の豊かな恵みに囲まれていました。そのため、食材の美味しさを生かしたシンプルな味付けの料理が特徴であり、当店でも煮込み料理ならココナッツミルクと塩で味付けするだけといったように、食材の美味しさをそのまま楽しんでいただくことを意識しています」と教えてくれたのは、同店に10年勤めるスーパーバイザーのジョーさん。その時代背景を聞くことで、目の前にある料理の奥深さをさらに感じることができます。
海外の影響を大きく受けたアユタヤ時代は、ポルトガルや中国など国際貿易が盛んになった時期。ポルトガルから唐辛子、インドからカレーペーストが伝わったのがタイカレーの始まりと言われ、牛肉入りマッサマンカレー「マッサマン・ヌア(350B)」の姿も。そしてラタナコーシン時代の特徴の一つに揚げられるのが、タイ中華の誕生。中国からの移住者による屋台が新たに登場し、今日に繋がるパッタイやクイッティアオといった麺料理が浸透するなど、タイの食文化に大きな影響を与えたと言われています。
料理が運ばれてくるたびに、新しい発見がある同店。過去と今を繋ぐレストランを体感したいと、今日も川を渡る人がいます。
スーパーバイザーのジョーさんへのインタビューはコチラ!
https://www.daco.co.th/information/339466/
Praya Dining
住所:757/1 Somdej Prapinklao Soi 2, Bangyeekhan Bangplad
(プラ・アーティットまたはワット・ラチャティワット船着場から専用ボートで向かいます)
電話:081-402-8118 / 02-883-2998(タイ語・英語)
時間:毎日11:00〜22:00(要予約)
Facebook:prayapalazzo
WEB:www.prayapalazzo.com
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