未曾有のウイルスのパンデミックが始まり早2年。長引くロックダウンに規制強化、そして規制緩和から一転、再強化など多くの業界が苦渋を飲み続けて早2年。そんな見えない敵を前に何を考え、どう乗り越えてきたのか。あっぱれコイズミさんを司会に招き、飲食業に携わる5人に率直な想いを尋ねました。
「本日は大変な状況のなか、お集まりいただきありがとうございます」と、あっぱれコイズミさんの第一声から始まった座談会。店内飲食が禁じられ、突如のデリバリー対応に四苦八苦しながら改善に奔走したこと。営業規制に伴いスタッフの勤務時間が大幅に減り、その困窮していく姿を目の当たりにして苦しんだこと。店を開け続けるか一時的に閉じるか、常に選択を迫られていたこと—。
「とにかく窮地の連続だった」と各々に振り返る皆さんですが、その渦中で一体何を考えたのか? そこには決して憂いだけではない、未来を見据える強さがありました。
日本人駐在員で賑わう店に変化
駐在員で賑わっていた店がコロナ禍で急転したと語るのは、大阪風お好み焼きの代表格としてバンコクで創業12年の「お好み焼き ちょいちょい」のリンジーさん。「デリバリーに切り替えたものの、お好み焼きがお客さまのもとに届く頃には蒸気でベットリしてしまい、美味しさが半減してしまう状況は辛かったですね。その一方で、常連の方々に頼らず、お店の魅力を広く発信していこうと強く思うきっかけにもなりました。当店はスクンビット・ソイ33/1という好立地にありながら建物の2階にあるため目立たず、『こんなところにお店があったんだ』と言われることも少なくないので」と気持ちを新たに前を向きます。
「北海道寿し居酒屋えぞや」をはじめ、ジンギスカンとニッカバーの3店舗をバンコクで展開する末武さんは、それぞれ別の場所にあった3店舗を1カ所に集結させようと移転を試みた時期がコロナ禍の真っ只中。加えて長期のロックダウンに遭い、出ばなを挫かれたと肩を落とします。「当店は、北海道にある本社から新鮮な魚介類が直輸入できるという強みもあり、これまで顧客の90%は駐在員の方々でした。けれどコロナの影響により本帰国をする方が増えたことで、お客さんの総数が大きく減ったんです。従来は本帰国があったとしてもバンコクで引き継ぎが行われていたので、後任の方がそのままお店の常連になってくれていたのですが、今回はそれも叶わず。そこで、日本人だけでなくタイ人のお客さまにももっとPRしていかなければと『寿司食べ放題』を大きく打ち出したり、タイ語のメニューを作ったりと方針を新たに見直しました。その効果は徐々に現れています」と静かに、けれど確かな手応えを口にします。
ピンチもチャンスもみんな平等に訪れる
誰もが正解を知らない状況下で、新たな道を切り拓いているのが「トンロー横丁」と「北海道スープカレー屋」を構える佐藤さんです。活気ある日本居酒屋として安定した人気を誇っていた「トンロー横丁」に加えて、3年ほど前から提供を始めたスープカレーが大ヒットし、専門店をオープン。自身の経験を活かしたスープ作りをはじめ、スパイスや調味料など独自に研究した奥深い味わいはバンコク1と評判です。コロナ禍では自宅にストックできるようレトルトパックを展開し、地方配送も導入。最近では新たに開発した「カレーパン」が好評を博すなど進化を続ける同店ですが、佐藤さん曰く、コロナ禍に一番意識したのは 〝お店を潰さないこと〟。 「みんな大変な状況なのは一緒ですが、続けていけば、いずれコロナが終わる。潰さなければチャンスがある。お客さんが戻ってきた時に『コロナ前の方が良かった』と思われないよう、一つひとつの料理やサービスのクオリティを確認していきたいと思います」。
まだまだ予断を許さないものの、段階を踏みながら少しずつ、以前の活力を取り戻しているバンコク。こだわりのコーヒーとサンドイッチなどの軽食、和スイーツが魅力の「はかた珈琲」では、コロナ禍にタイ人スタッフが自らSNSを積極的に活用し、タイ人に対する訴求を強化。その効果もあって、店内飲食が解禁された後は新しいタイ人のお客さんが増えているのだとか。
「特に、わらび餅やお団子といった和菓子を目当てに来る方が多いです。タイの方には引き続き日本の味を楽しんでもらえるように努めていきたいですし、日本人のお客さまにも飽きられないよう新メニュー開発に力を入れていきたいと思います」と松下店長。同店には、昔ながらの喫茶店のような素朴で穏やかな時間が流れています。
withコロナにいかに対応するか
そして興味深いのが、コロナ禍の2021年1月にオープンし、今や連日行列ができるなど人気店の仲間入りを果たした「六九麺」。鶏清湯(とりちんたん)を使った「醤油らぁ麺」を看板メニューに据え、豚骨が主流のタイのラーメン業界に新たな風を吹き込んでいます。そんな同店を牽引する藤沢さんがこだわりの一つに挙げるのが、自分が店舗に立つこと。「視察をしていた時、バンコクには日本人が店に立っているラーメン屋が少ないと感じたんです。醤油をはじめとした日本の食材にこだわるのはもちろん、麺上げなど味の核になる部分は自分が担当しようと決めました。ラーメンを1日69杯限定にしたのも、味を一定のクオリティに保つためです」。店内には、偽りのない美味しさを証明するためオープンキッチンを採用。目の前で出来上がっていくラーメンを動画に撮るタイ人のお客さんも多いと言い、「映え」を好む若いタイ人世代の心をも刺激します。
お互いの取り組みに耳を傾け、鼓舞し合う気概を感じた本座談会。その締め括り、あっぱれコイズミさんは「皆さんの努力でパワーアップしたお店に行くしかないですね!」と全力エール! withコロナ時代を生きる飲食店がどのように進化していくのか。その動向を見つめながら、DACO編集部もサポートを続けていきます。
バンコク都・コロナ規制の変遷
2020.01
タイ初の感染が発覚
2020.03.26
非常事態宣言を発表
効力は4月末までだったが現在まで延長が続く(15回目の延長措置)
2021.09
店内飲食解禁
2021.11
店内飲酒・時間指定で解禁/夜間外出禁止令解除/条件を満たした者に限り、入国者の隔離免除(Test & Go)スタート
2021.12
タイで1人目のオミクロン株感染が発覚
2022.02
政府の判断はいかに?※2022年1月時点