男と女の学際研究 ~現役学者が微笑みの国を考察!~
5人の現役研究者が「日本男とタイ女」をテーマに、いろいろな角度から考察する連載コラムです。
経営学 林 拓也
竹本は第25回および30回で、日本男の「几帳面で真面目な文化」に積極的な価値を置いていますが、別の角度から検討してみようと思います。
日本的システムがストレスに
末廣(2000)が述べるとおり、タイを含めたアジア諸国の経済発展を実現させた一つの要素は、QC活動、TQC活動、提案活動などから実現される「積み重ね型革新」に支えられた日本的生産システムの導入でした。
日系製造企業は直接投資など企業内技術移転のチャネルを通じて同システムをアジア諸国に波及させ、後発国であったタイも中進国と言えるまでに発展を遂げました。
しかしこれは当然、職場での厳しい管理と現地人個人間の競争を促すことになります。
特に後発国は先発国と比べより短期間での工業化がなされますから、この管理と競争も極めて短期間のうちに導入され、かつ労働者の組織化が遅れている若年女子労働者を最大限導入し実施されます。
ここから、管理と競争を強いられた現地人労働者の感じるストレスと適応不全の問題が発生します。
几帳面と真面目も行き過ぎると
日本的生産システムの諸特徴は、まさに日本男の「几帳面で真面目な文化」と整合性があると言えるでしょう。日本男は几帳面で真面目だからこそ、日本的生産システムを作り上げ、アジア諸国の発展に一定の寄与を果たしたと言えます。
タイ女がそんな日本男に惹かれる面もあったことでしょう。しかしそれが行き過ぎると、実際にタイの生産現場で起こっている、管理と競争に基づいた社会に対するタイ人の適応不全の問題が発生します。
末廣(2014)はこの点に対し警鐘を鳴らしています。末廣は孤独が原因であるタイ人の自殺の例を出し、さらにタイにおいてうつ病患者数や、ストレス社会と密接な関係を持つ生活習慣病の罹病率が近年増加している点などを指摘しています。
末廣が言うとおり、「微笑みの国」タイは「微笑みを失った国」へ転換しつつあるとも言えるのです。
参考文献:末廣昭(2000)『キャッチアップ型工業化論』名古屋大学出版会、末廣昭(2014)『新興アジア経済論』岩波書店